ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青崎有吾「地雷グリコ」(角川書店)

ゆきあやさんに教えて頂いた、青崎さんの新作。今年のランキングを賑わせそうな

出来とのことで、これはもう、読むしかないでしょ!と即行で予約。ラッキーな

ことに、予約なしで回って来て早めに読むことが出来ました。

いやー・・・、これは・・・めっちゃ面白かったです!確かに、この出来なら

今年の年末ランキング賑わせそうかも。

設定自体は、正直、ツッコミ所満載どころか、ツッコミ所しかないってくらい

なんですけども、あくまでもフィクションで、エンタメとして読むなら、もう

最高に楽しめる作品だと思うなぁ。

なぜか勝負事にめっぽう強い、女子高生の伊守矢真兎が主人公。彼女の元には、

様々な理由で風変わりな勝負への挑戦状が持ち込まれる。地雷が仕掛けられている

じゃんけんグリコ、百人一首のカードを用いた神経衰弱、自分で一つ型を追加して

行うじゃんけん、十文字以上をかけて行われる変形だるまさんがころんだ(かぞえ

た)、四つの部屋にカードを取りに行かなければならない変則ポーカー・・・

どれもが先読み必須の一筋縄では勝てない勝負ばかりだが、真兎はこの究極の

頭脳ゲームに打ち勝てるのか――。

青崎さん、よくこんな面白いゲームを次から次へと考えつけるなぁ、と一作読む

度に感心。扱われるゲームは、人生で誰もが一度はやったことがあるものばかり

ではないでしょうか。ただ、そこに風変わりなルールが追加される為、ルール自体

を理解するのが少し大変だったりもしましたが。その追加ルールや冒頭で提示

される基本的な決まり事が重要なポイント。そこが勝利の鍵になっているところが

どれも絶妙に上手いなぁと思いました。それ反則じゃないの!?って思うことでも、

前に戻って確認すれば、前提として成立するように説明されている。真兎も、そこを

ちゃんと押さえてゲームの進めているのがわかって、ただただすごいとしか言いようが

なかった。

ヒロインの真兎のキャラクターが抜群にいい。一見、だらしなくてぼーっとした平凡な

女子高生なのに、いざゲームを始めると、一転、とんでもない頭脳と先を読む

能力で、難攻不落と思えた相手を次々と打ち負かして行く。どんだけ先の先まで

相手の動きを読んでるんだよ!と恐ろしくなったほど。将棋の勝負みたいに、相手の

先の先の先の先くらいまで読み通してる感じ。ほんとに高校生(しかも一年)かよ!

と思いました(笑)。

勝つ方法も、その時々で大胆不敵だし。えぇ、そんな手があったのかーー!!と

びっくりさせられるものばかりだった。特に、だるまさんがかぞえたの第三セット

には意表をつかれたなぁ。度肝を抜かれた、とはこのことだと思いました。

毎回、本人は、そこまでゲームとか勝負事に執着がある訳ではなく、ただ、相手から

挑戦されたから仕方なく受けて立ってる感じなのに。ただし、最終話のゲーム

だけは、ある理由があって、自分から敢えて勝負に挑むのですけれど。この、

ラスト一作によって、真兎に対するイメージはガラッと変わるんじゃないかな。

この鮮やかな印象の変化に、すっかりすべてを持っていかれてしまった。いや、

読んでる途中から、なんとなく、彼女が要求していることの想像はついたの

ですけどね。この一作があることで、この作品自体の青春度がぐっと上がって、

とても素敵な青春小説を読んだ、という後味になっているところが素晴らしいと

思いました。さすがに、星越高校のSチップの設定はありえないでしょう、とは

ツッコミたくなりましたけどね・・・。一枚10万円の価値のあるものを、全生徒

奨学金と称して配るとか、意味不明だし(まぁ、そのまま換金できる訳では

なく、いろいろ設定はあるのだけど)。そもそも、絵空みたいな方法で推薦

試験をアピールした子を合格させるって時点で、星越高校のヤバさがわかるって

ものなんですが(普通ならこんなアピールされたら、即座に落とすと思うけど)。

一芸に秀でているとか、そういう問題じゃないと思うけどなぁ・・・(倫理観的に

見て)。最後のポーカーでのあの行為にも怖気が走りましたし。勝つ為には

犯罪行為も辞さないってスタンスが怖すぎて。ただまぁ、そんなサイコパスな子

と対等にやり合う真兎はかっこ良かったですけどね。

脇役もそれぞれにキャラが立っていて良かったです。語り手で真兎の友人、鉱田

ちゃん(平凡そうなこの子が、案外一番重要なキーキャラクターだったりする)、

生徒会副会長にして、いつでも冷静沈着なスクエアメガネ男子・椚先輩、自由な

服装をしたいという、自分本位な欲求を満たす為だけに生徒会長になった佐分利

会長(女子)、ゲームの考案や、いかなる時でも中立公平な立場でのジャッジ等、

ゲームに対する対応能力抜群のラクロス男子・塗部くん、などなど。

なんか、漫画原作でもいいようなキャラの子ばっかりでしたね。対戦相手も

個性的なキャラ揃いでしたし。漫画化したら面白そうだ。

ちなみに、鉱田ちゃんの下の名前って何なんだろう。彼女だけ下の名前が最後まで

出て来なかったような(読み落とし?)。

あと、結局、真兎の一番大事なものって・・・?なんとなく想像するものは

あるけど、はっきり言葉にして出て来なかったので。

エピローグで、さらなるゲームへの布石が仄めかされているので、これはぜひ、

この後に続く続編を書いて頂きたいところですね。

とっても面白かったです。読めて良かった。

紹介して下さったゆきあやさんに多大なる感謝を。