ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

凪良ゆう「星を編む」(講談社)

2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編。人気ありすぎて、回って

来るのに時間かかりましたねぇ。ようやっと読めました。今年の本屋大賞にも

ノミネートされているので、結果が出る前に読めて良かった~(発表は明日かな?

ギリギリだった^^;;)。

続編と紹介しましたが、三作が収録されていて、純粋な続編はラストの一作だけで、

他二作はスピンオフ的な作品です。

 

以下、若干、内容に触れたネタバレ的な感想が入っております。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

一話目の『春に翔ぶ』は、北原先生の過去のお話。彼がなぜ、血の繋がらない

結ちゃんという子供を育てることになったのか、その理由が明らかになります。

いやもう、北原先生、良い人過ぎんか!?暁海に対してもそうだったけど、昔

から真面目でお人好しなところは変わってなかったんですねぇ。彼の菜々に対する

教師としては少し逸脱し過ぎな言動には、何度もヒヤヒヤさせられました。どこで

誰に見られているかわからないですからね・・・時代設定がいつなのかいまいち

はっきりしないけど、少し前の時代だとしても、ね。教師と生徒ですからね・・・。

菜々の妊娠を知らされた敦くんの態度には腹が立って仕方なかったです。まぁ、

彼の立場を考えると、仕方がないのかもしれませんが・・・。結構ありがちな展開

ではありますけど、やっぱりそこに少しくらいは誠実さがあってほしかったです。

彼女のそばに、北原先生がいたことが、せめてもの救いでしたね。先生にとっては、

背負わなくてもいいものを背負ってしまった訳ですが。でも、その後の結ちゃんとの

関係なんかを考えると、あの選択はきっと人として間違ってなかったんでしょうね。

本編の時にはわからなかった、北原先生の人となりや苦悩が知れて良かったです。

二話目の『星を編む』は、櫂の小説に携わった柊光社の編集者・植木と、薫風館の

編集者・二階堂、二人の物語。二人とも編集長に昇進しています。櫂が亡くなった

翌年のお話。それぞれに、櫂の小説を出す為にたくさんの障害と戦って、傷ついて、

それでも、彼の才能を疑わずに邁進した同士。二人には、『共闘』という言葉が

似合うと思う。男女の枠を超えて、同じ勝利を掴む為に協力し合って、励まし合って、

『櫂の本を売る』という目的の為に戦う同志。少しだけ、男女の感情が垣間見えた

瞬間もあったけど、結局深い仲にはならずに、その感情には目を瞑ってやり過ごした

ところが、大人だなぁと思いました。ま、お互いに家庭もあるし、踏み込んじゃ

いけないのは間違いないですしね。そこで足を踏み外さないところが、二人の

いいところなんじゃないかな、と思いましたね。安易に不倫に走るような人間に、

櫂の本を作って欲しくはないですもの。って、二階堂さんはかつて不倫したひと

なんだったっけ(しーん)。二階堂さんの旦那さんの言動は、なんだか怖かった。

ちょっとサイコパスっぽい雰囲気ありますよね、この人。誠実そうに見えて、

全然誠実じゃないことやってるし。まぁ、子供を作ることに関する二階堂さんの

旦那さんへの応答もひどかったですが。こんな表面だけ取り繕ったような歪な関係は、

やっぱりいつか破綻する運命だったとしか思えなかったですね。どっちもどっちだと

思いました。

三話目の『波を渡る』は、『汝、星のごとく』の後日譚。暁海と北原先生のその後の

生活が、年を追って描かれます。相互に助け合う為に結婚したふたりの関係が、

その後どう変化していくのか。少しづつ時が進むごとに、その想いも形も変わって

行く。その様子が丁寧に描かれていて、良かったですね。何度か離婚話も勃発

するけど、それも乗り越えて。二人の関係は、複雑に思えて、実はすごーく単純

にも思えました。ただ、本人たちが認めてなかった(気づいてなかった?)だけで、

もうずっと、胸の底にあるのは愛だったんじゃないかなって思う。もちろん、

最初はそうじゃなかっただろうけど。暁海は櫂のこともありましたからね。でも、

激しかった櫂への愛とは全く別の形で、暁海は北原先生のことを愛し始めていたのでは

ないかな。北原先生の方は、もしかしたら、最初の方からその感情があったのかも。

晩年の二人の関係は、もう、完全に理想の夫婦って感じでしたね。始まりは歪な

関係だったかもしれないけれど、長い年月を経て、いろいろな経験をして、ゆっくりと

穏やかでお互いを思い合える関係になっていったんだと思う。

二人であちこちに旅行に行って、楽しそうにしている姿が微笑ましかったです。

ほんと、一緒にご飯を食べて、おいしいねって言い合える人がいるのって幸せな

ことだと思う。もう、それだけで、十分なんだよね。周囲の人のわだかまり

解けていて、穏やかな凪のような老後を過ごしている二人が、とても幸せそうで、

私も嬉しかったです。二人とも、いろいろあったものね。最後くらい、静かに

穏やかに暮らしたっていいんじゃないかな。

 

暁海でも北原先生でもない主人公を据えた二話目のタイトルが表題作になっている

ことに違和感を覚えてしまうけど、『汝~』についている『星』がこちら

にもついているから、それを受けてこれにしたのかなぁ。内容的には、一話目と

三話目のどちらかが表題作になるべきって気もするんだけどもね。

『汝~』と対になるような装丁も素敵でした。『汝~』の内容が補完されるような

作品なので、二作併せて、読んで頂きたい傑作だと思いました。