ミステリ読書録

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大崎梢/「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」/東京創元社刊

大崎梢さんの「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」。

駅ビル6階の書店「成風堂」に勤める杏子は、ある日警察の訪問を受ける。話を聞くと、
書店に来た客が事件に巻き込まれ、そのアリバイの確認をしたいらしい。アルバイト店員の
多絵は、客が持っていたというアリバイ時間のレシートから、鮮やかに客のアリバイを
証明した。その出来事をかつての同僚で、現在信州の老舗書店で働く美保に電話で話した
所、美保から思いがけない手紙が届く。美保が勤める書店で幽霊騒ぎが起き、店が存続の
危機に陥っているからアルバイトの名探偵を連れて助けに来い、というのだ。渋る杏子だった
が、何故か多絵が乗り気になり、結局信州へ向かうことに。そこでは、27年前の作家殺人
事件の謎が時を越えて持ち上がっていた――書店員ミステリ、第2弾。ミステリフロンティア
シリーズからの刊行。


本屋さん探偵、第2弾は‘出張編’となる長編。前回は書店で起こるささいな事件を
解決する‘日常の謎’系でしたが、今回は殺人事件の謎が中心の‘本格’より。私としては、
前作の日常の謎系連作ミステリの体裁の方がこの作品の雰囲気には合っているかな、と
思います。ただ、杏子&多絵の本屋探偵コンビをもうちょっと大きな事件で動かしてみたい
という作者の意図は十分伝わって来ました。伏線の張り方などでいまひとつすっきりしない
という感じは受けたのですが、謎解き部分はなかなか楽しめました。ただ、多絵が大学生の女の子
ということで、一つ一つの説明に説得力が欠けるような印象を受けてしまいました。読んでいて、
やはりこの手の大きな事件を説明するにはちょっと役不足な感じがしちゃうんですよね。
多絵ちゃんは書店内の事件を解決する位がちょうどいい気がします。好きなキャラなんです
けどね。でも、ラストの余韻の残し方は好きですね。杏子さんが多絵ちゃんに選んであげた
本って一体何なんでしょう。気になるなー。書名、明かさないのかよ!と突っ込みたく
なりましたよ(苦笑)。

それにしても、今回登場した老舗の「まるう堂(宇津木書店)」、素敵ですねー。所々に散り
ばめられた老舗書店ならではのこだわりを読んでいて、本当に行ってみたくなりました。
冒頭部分で、刑事が「本屋で2時間もうろつけるものなのか」というような疑問を呈しますが、
杏子さん同様、私だったら全然苦もなくいられますね。最近ではカフェ併設の本屋も多いですし。
ただ本棚眺めてるだけでも全然飽きません。まぁ、本好きならばだいたい2時間なんて軽い
という返事になるでしょうけど(ですよね?)。

それにしても、あとがき解説を読んで、新刊書店を舞台にしたミステリって今までほとんど
出ていないのだな、と気付きました。例で出て来るのが若竹さん発案の「競作 五十円玉
二十枚の謎」っていう位だからよっぽどないのでしょう。確かによく考えると古本屋の
探偵ものはよくあるけど、新刊書店ってない。このシリーズは意外な盲点をついた作品と
言えるのでしょうね。本好きならば本屋が好きで当たり前。ならば手に取らないではいられ
ない、という図式。しかも書いているのが元書店員さんなのだから、リアリティもたっぷり。
本屋の内情などは読んでいて興味が尽きません。これからも続けて行って欲しいシリーズです。
どうやら、大崎さんは既に第3弾を書き始めておられ、しかもそれが従来の短編形式という
のだから、次回作の期待は高まるばかりです。