ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

戸松淳矩/「名探偵は千秋楽に謎を解く」/創元推理文庫刊

戸松淳矩さんの「名探偵は千秋楽に謎を解く」。

オレは九重一雄。両国にある某私立高校の一年生だ。両国から本所、深川にかけて点在する
二十を超える相撲部屋のはずれに位置する、弱小相撲部屋・大波部屋は、中学の同級生・
花田が入門している為、友人の枝川純平、筒井友彦とともに身内も同然の付き合いをしている。
ある日、その大波部屋に大砲の弾が打ち込まれるという事件が起きた。そして直後に牛乳屋の
牛乳に石見銀山が混入され、将軍家排領の弓に血がベットリと付着しているという怪事件が
相次いで起こったものだから、街中は大騒ぎ。そんな中、親方の一人娘夏美が誘拐されて
しまう。犯人は意外な要求をして来て・・・!?戸松淳矩の記念すべきデビュー作、創元推理
文庫で復刊。


面白かった!・・・あとがき解説の辻真先氏の言葉を真似てみました(笑)。
これ、あとがきを読んでみるとなんと昭和五十四年に上梓されたものだそう。でも読んでみて、
そこまで古臭いという印象は全くなかったので、ちょっとびっくりしました。しかも初刊行は
ソノラマ文庫!(笑)内容読むといかにも創元推理っぽい雰囲気って気がするんですが。
時代をそれ程感じなかったのは、両国とか深川といった下町が舞台だからでしょうね。
あの辺りは今でも下町情緒溢れるところだし、相撲部屋がたくさんあるのも今と変わっていないし。

肝心のミステリとしてはひっかかるところが満載なんですが(苦笑)、ユーモア溢れる作風は
非常に読みやすく、面白かったですね。誘拐事件の犯人から要求された八百万を一週間
で使い切ろうと、みんなで団結してある行動に出る辺りは、あまりにくだらなくてにやっと
しちゃいました。
ただ、主役の高校生三人のキャラがいまひとつ物語に生かされなかったのが残念な所。同級生
がいるってだけで相撲部屋に高校生が三人も我が物顔で出入りしているのもちょっと違和感
ありましたし。まぁ、町内ぐるみの付き合いがある下町ならではなのかもしれませんが。
それこそ、町ぐるみの大掛かりな犯罪の割に、ことの真相があっさりと明かされすぎだし、
はた迷惑な動機にずっこけ気味でしたが、細かい部分をあまり気にして読んではいけない
作品だと思いました(苦笑)。

戸松さんは長い沈黙を破って出版された「剣と薔薇の夏」が話題になり、私も読みたいと
かねてから思っている作品なのですが、結構な分厚さがあるのでなんとなくしり込みしてる
状態だったりします。そんな訳で、その大作に取り掛かる前に本書のような軽めのミステリ
をジャブ程度に読んでみたという次第。本書には続編もあるようなので、早速そちらも
探して読んでみたいです。調べたらどうやら三部作らしい・・・。全部図書館にあるかな。

相撲部屋を扱ったミステリというと、京極さんの「どすこい」位しか思い浮かばないのですが、
なかなか面白い題材だな、と思いました。ただ、相撲界の内情がよくわかる本って訳でも
ないのですが^^;
朝日ソノラマで出た位だから、学生向けの軽めのミステリ、という感じです。古き良き時代
を感じさせるユーモアミステリ。気軽に手に取ってみて頂きたい作品です。


※ちなみに作者の名前は「トマツアツノリ」さんと読むそう・・・読めないよな~普通^^;