ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「フィッシュストーリー」/新潮社刊

伊坂幸太郎さんの「フィッシュストーリー」。

売れないロックバンドが最後にレコーディングした渾身の一枚のレコード。その中のある曲
には、間奏が中断して一分ほどの無音の状態が続く箇所があった。不可思議なこの空白の
部分には、実はバンドのメンバーの心の叫びが込められていた。そして、時代を超えて、
この心の叫びが奇蹟を起こす――(「フィッシュストーリー」)。伊坂作品に登場した脇役
が活躍する短編4編を収録。


伊坂さん新作です。今回、以前に書いた作品の脇役キャラが大活躍!と聞いて非常に楽しみに
していたのですが、悲しいかな、どれがどれの脇キャラだったのかほとんどわからないまま物語
を読んでしまいました・・・自分の記憶力のなさが情けない・・・。
これを読む前に「ラッシュライフ」だけは読んでおいた方がいいと聞いていたので、
回って来る前に借りれたら再読しようと思っていたのですが、予想外に早く回って来て
しまい、あえなく断念。これから読まれる方は、多少おさらいしてからの方が楽しめる
かも?ただ、それぞれの短編は独立した話ですので、これだけ読んでも全く差し支えはない
ということは明記しておきます(当たり前か)。


では、各作品の感想を。


「動物園のエンジン」
章ごとに書かれる動物園マークが可愛いです。このオチに感動するか憤るかはその人の考え方
次第かも。私はややずっこけましたが、これはこれで評価できると思いました。作品全体には
どこかふざけた雰囲気が漂っているのに、主要登場人物がこぞって陰鬱な未来を迎えることを示唆
させる表現が気になりました。そういう未来なら知らない方が良かったなぁ・・・。ちなみに
伊藤は「オーデュボンの祈り」の主人公、河原崎は「ラッシュライフ」に出て来る河原崎
お父さんだとか(←書くに当たって調べました。読んでる時は全く意識せずorz)。


サクリファイス
どうしました、伊坂さん?これは全くダメでした。この着地点は納得いかないです。せっかく
設定なんかはすごく好みだったのに、それが全く生かされてない。絶対もっとホラーな展開に
向かうと思ってたのに。あっさり謎が解けて、あっさり主人公が村から帰って来ちゃうって、
なんだ、そりゃー!って感じでした。ラスト2ページの後日談は面白いけど、最後の黒澤の
一言が?でした。

「フィッシュストーリー」
これは一番好きですね。これぞ伊坂作品!という構成。伊坂版「風が吹いたら桶屋がもうかる」
という感じでしょうか。こういう、一見無関係に思えるそれぞれの断片がちゃんと繋がってる
というのが好きなんですよ。このラストで一本に繋がる爽快感がたまりません。この短編集
の中では一番伊坂さんらしい一作と云えるのかもしれません。

「ポテチ」
ラッシュライフ」に出て来た今村が主人公(これもさっき調べた。もちろん読んでる時は記憶
からすっぱり抜けておりました^^;)。またまた黒澤も登場。読んでる途中からじわじわとこれは
「感動できそうだ」と思っていたのですが、やっぱり良かった。ただ、私が想像した展開では
なかったですけど。今村の母親と今村の恋人・若葉とのやりとりが実にいい。そして、今村が
泣きながらポテチを食べるシーンに胸を打たれました。その時点では今村が泣いた理由はわか
りませんでしたが、何故かこちらまで悲しくなってしまいました。純粋な今村のキャラは好き
ですね。そして黒澤はやっぱり格好いいです。ラストのオチはいかにも伊坂さんという感じが
しました。今村と若葉の出会いも面白いですね。「キリンに乗って~」のくだりににやり。


う~ん、少なくとも、「オーデュボン~」と「ラッシュライフ」を再読してからもう一度
読みたいですね。ちゃんとどの人物がどの作品のあのキャラだとわかった上で読むと、
全く楽しさが違うと思います。多分それぞれもっと細かく見ていけば意外なキャラが
登場してるのに気付ける筈だと思うのですが。でも、まぁ単独で読んでも面白く読めた
から良しとするか・・・。
それにしても、伊坂さんてほんとに強盗とか泥棒って設定が好きなんですねぇ。本書に収録
されてる作品には全てその設定が出て来ます。この短編集の共通のテーマなのかも。

これから読まれる方は、是非↑にあげた二作の登場人物をおさらいしてから読まれることを
お勧めします(自分のことは棚にあげる)。
この作品から伊坂作品を読まれる方(いるのか?)は、是非↑の作品も続けて読んでみて
頂きたいと思います。
私もおさらいしよっと。