ミステリ読書録

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伊坂幸太郎/「首折り男のための協奏曲」/新潮社刊

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伊坂幸太郎さんの「首折り男のための協奏曲」。

胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々! 「首折り男」
に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。黒澤を「悪意」が襲い、
「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。技巧と趣向が奇跡的に融合した
七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集(紹介文抜粋)。


伊坂さん最新作。久々に黒澤登場ということで、とても楽しみにしていました。最近の伊坂さん、
よく続編作品を書かれますよねー。何か意図するところがあるのでしょうか。こうなると、次は
是非『チルドレン』の続編なんかを書いて欲しいな~とか思っちゃうのですけれども。陣内に
また会いたいなぁ。

ただ、黒澤が出て来ると言っても、黒澤オンリーの連作集って訳じゃなかったんですよね。
どちらかというと、首折り男の話に途中から黒澤が乱入して来たような感じ?そこから、
黒澤主体の話が続いていくのですけれど、最後ではまた首折り男の話に戻るという円環形式。
全部の作品が綺麗にリンクしているっていう訳でもなく、全く別の話かと思ったらひょこっと
他の作品とのリンクが見つかってニヤリ、みたいな感じ。まぁ、中には時系列を変えて
同じ登場人物が出て来るような話もありましたが。もうちょっと全体的に綺麗なリンクが
あるのかと思っていたので、そこはちょっと拍子抜けしたところもあったのですけどね。
まぁ、最初と最後が首折り男の話で繋がっているので、まとまりのない短篇集って印象
はないですね。でも、一作づつ単独で読んでたら、リンクには全く気づかなかったかも
しれないけど^^;

もちろん、どの作品も十分面白かったです。冒頭とラストの作品だけ既読だったのですが、
雑誌掲載時からは大分加筆されている感じがしました。ラストの合コンの話なんて、こんな
内容だったっけ??と首を傾げてしまいましたし。読み比べてみたら面白いかも。


では、一作ごとに簡単な感想を。

『首折り男の周辺』
首折り男の結末には唖然。冒頭の一作でこの展開!?と面食らわされました。悪人なのは
間違いないのに、どこか憎めないキャラでしたね。殺人とバランスを取る為に『誰かの役に
立ちたい病』が発病する、というのが面白かったです。いじめられた少年が首折り男とそっくりな
小笠原のおかけで、ほんのすこし勇気を持てるようになったところが良かったです。ラストも
爽やかでしたね。

『濡れ衣の話』
一作目の『首折り~』で首折り男が言っていた時空のねじれの意味がわかります。人を殺して
しまった丸岡が出会う少年は、本当に首折り男の過去の姿だったのか。いきなりSF的な設定が
出て来たので驚きました。この短篇集の中では一番不可思議色の強い作品かも。

『僕の舟』
一作目に出て来た若林夫妻の数年後。ここでついに黒澤登場。病床の夫の前で、妻の絵美は
黒澤に、五十年前四日間だけ会った初恋の男について調べて欲しいと頼みます。黒澤の調査
報告には意外な事実が・・・。
とっても素敵な奇跡のラブストーリー。人は、出会うべくして出会う人がいるものなんですね。
水兵リーベ僕の舟~って懐かしいなぁ。私も試験の時何度も頭の中でリピートしたっけ。

『人間らしく』
こちらも黒澤登場。専業主婦の女性から、妹の夫の不貞の証拠を調べて欲しいと頼まれます。
献身的に尽くして来た妹に対して、散々酷い仕打ちをしてきた義理の弟に一矢報いたいという姉。
一方、黒澤は以前知り合った仙台市内に住む作家の自宅に招かれ、クワガタ飼育が趣味の彼から
クワガタの生態についての話を聞きます。作家は、クワガタ同士がケンカをすると、弱った方に
手を差し伸べ助けているのだと言います。作家は、クワガタたちにとって神のような存在なのか。
さらに、塾でいじめを受ける中学生も登場。ラストは、因果応報、悪いことをすると自分に返って
来る、ってことかな。伊坂さんの作品にはこういう結末が結構多い気がするな。

『月曜日から逃げろ』
狡猾な制作プロダクションの男に陥れられた黒澤。仕返しに、相手に罠を仕掛けることに。
黒澤らしい逆転劇。ラストはスカっとしました。黒澤の方が一枚も二枚も相手より上でしたね。
大西若葉って前にも出て来たキャラでしたっけ。全然覚えてなかった・・・^^;

『相談役の話』
クワガタ飼育が趣味の作家が再登場。学生時代の知人から突如再会を求められた作家。彼は、
女にはもてるが、人を見下すような性格だった。再会を望んだ理由は、仙台の歴史に欠かせない
山家清兵衛について、作家の彼から知識を得たいが為だった。
途中、ちょっとホラーめいた話になって、ぞぞっとしました。特に、黒澤から送られて来た
メールに添付されていた、ミュージカル会場の観客席の写真・・・想像すると・・・ひえぇ(><)。
作家の知人の男は一体どうなったんでしょうか・・・。

『合コンの話』
これだけ文体がちょっと違いますね。雑誌掲載時に読んだ時もちょっと意外に感じたのですが。
合コンにおける、男女の内面心理がよく出ていて面白い。おしぼりのくだりは「なるほど~」
と思いました。確かに、そうやって仲間の意向がわかるといろいろ便利かも。相手も知って
いたら台無しだけど(苦笑)。よくある手なんですかね、こういうのって。
根暗な佐藤がまさかの変貌を遂げるラストに快哉を叫びたくなりました。刑事を嫌がるって、
何かある、と思っていたけれど。思っていたのとは全く違った展開で、膝を叩きたくなりました。
わかってみると、彼の言動のひとつひとつにすべて合点が行き、すべてが腑に落ちました。
人間は、見かけじゃわからないってことですかね。爽快な気持ちで読み終えられました。






伊坂さんらしい、小技満載の短篇集だったと思います。面白かったです。