ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大崎梢/「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」/東京創元社刊

大崎梢さんの「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」。

人気のミステリ作家・影平紀真のサイン会が行われることになった。しかし作家が出した
条件は「以前から支えてくれるあるファンの正体を解き明かしてくれる書店員のいる書店」
というもの。多絵を頼りにして早速名乗りをあげた成風堂だったが・・・(「サイン会は
いかが?」)。駅ビル6階にある書店・成風堂に持ち込まれる様々の謎を書店員の杏子と
アルバイト店員の多絵のコンビが解き明かす人気シリーズ第三弾。


やはりこのシリーズは短編形式の方が合いますね。今回はまた舞台が成風堂に戻り、いつもの
従業員メンバーたちにも会えたのが嬉しい。そして、本の帯や雑誌の付録に関するエピソードや、
サイン会の内情など、書店ならではのエピソードが盛り込まれていて楽しめました。
ただ、前回の長編でも感じたことですが、このシリーズは事件に人の悪意が絡んで、重いものに
なるとどうも推理の面で弱くなる傾向がある気がします。
1話目の「取り寄せトラップ」、表題作の「サイン会はいかが?」、どちらも多絵ちゃんの
謎解きを読んでいて、あまりすっきりしなかった。「取り寄せ~」は詩織の祖父の掛け軸
の所有者をあぶり出す為に書店に本を注文する、というのはあまりにも回りくどい
やり方すぎる気がして説得力が感じられなかった。それに、祖父の転落死の真相も結局
わからず仕舞いでやや消化不良。「サイン会~」の方は犯人の登場が唐突すぎて、推理物としては
あまりフェアじゃないなと感じました。作家の影平のキャラ設定も何か中途半端な印象でした。
どうもこの方は本格を意識するとはずす傾向にあるのかなぁ。さりげなく登場する内藤さんの
キャラはちょっと気になりますね。今後もっと活躍の場があるのかな。

ただ、それ以外の三篇はとても良かった。特に「君と語る永遠」「バイト金森君の告白」
が好きかな。「君と~」は最も読後感がよく、ラストの杏子が広希に告げる台詞が
胸にジーンときました。素敵なお父さんだったんだなぁ。広希はきっといい書店員になる
でしょうね。高校生になったら成風堂でアルバイトするんだろうな。
「バイト金森君~」はちょっとしたラブコメ調(?)という感じで、純粋に楽しく読みました。
書店に纏わるエピソードを上手くミステリと絡めているという意味では、この作品が一番
成功している気がします。女子高生がくれたフォトファイルの謎を解いて行くシーンは書店
で働く人間ならではの発想で無理がなく、素直に感心できました。鈍感な金森君が女子高生の
想いに気付く日が来るといいけど。
ラストの「ヤギさんの忘れ物」もほのぼのしてて好きですね。通っていたお店の店員さんが
知らない間にやめてたりすると妙に寂しく感じることってありますね。大抵の場合、もう
二度と会うこともないけれど、こうやってほんのちょっとでも繋がっていられる関係は
嬉しいですね。

このシリーズを読むと、いつも「本屋さんって大変なんだなぁ」と頭が下がる思いがします。
本屋好きとしてはたまらないシリーズなんですけどね。どうやらこのシリーズ漫画化される
そうですね。コミックス化したら読んでみたいなぁ。