ミステリ読書録

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似鳥鶏/「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」/光文社刊

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似鳥鶏さんの「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」。

荷ほどき、付録組み、棚作り、ポップ描きにもちろんレジ。お客さまの目当ての本を探したら、
返本作業に会計、バイトのシフト。万引き犯に目を光らせて、近刊のゲラを読んで、サイン会の
手配をして……、書店員って、いったいいつ寝るの?
力仕事でアイディア仕事で客商売。書店員は日夜てんてこ舞い。しかも、彼らは探偵という
特殊業務まで楽しげにこなしてしまうのです。
渇いた現代社会の知のオアシス、本屋さんにようこそ!(紹介文抜粋)


新刊書店を舞台にした似鳥さんの新作。一話目は本屋さんを舞台にしたアンソロジー
既読。読んだ当時、シリーズ化されて欲しいなーと思っていたので、こうして1冊に
まとまって嬉しい限り。
本屋で起きる日常の謎をテーマにした連作短編集。といっても、ラスト一作は日常の謎
を超えた重い事件が起きますが。
こういう題材の作品は大好きなので、とっても楽しく読みました。一作ごとの出来も
さることながら、ラスト一編の仕掛けにはまんまと騙され、作品通して完成度の高い
一作になっていると思います。
主人公のアルバイト店員・青井君のキャラが良かったですね。仕事をしないで青井君に
なんでも押し付ける店長の言動には若干イラっとさせられたのですが、彼女は彼女で
すごい特技や才能があるし、そういう性格になったのにも理由があるとわかったので、
まぁ、仕方がないかな、と思えました。本に関する知識や謎解きの鋭さに関しては
脱帽ものですしね。青井君が、なんであんなに怠惰な店長に従順なのかなーと
疑問を覚えていたのだけど、ラスト一編を読むと、それも納得出来ました。
店長と青井君の掛け合い・・・というか、店長の言動に対する青井君の心の中の
ツッコミが面白かったです。年上の気の強い女性に振り回される年下青年、という図は
このシリーズも同様。よっぽど作者はこのシチュエーションがお好きなようです(苦笑)。
この手の作品を読むと、図書館派の私のような人間は、本当に肩身の狭い気持ちに
なります。この本も図書館で借りてしまった。申し訳ない・・・。出版業界が厳しい
ということはわかっているつもりだけれど、改めてその厳しさを痛感させられました。
確かに、わが町の本屋さんも、個人の本屋さんはほとんど潰れてしまいました。私が
子どもの頃は、1冊の本を探して、市内にあるいくつもの本屋さんをはしごしたものですが・・・。
本屋さんという空間が大好きなので、本来ならばもっと、本を買って貢献するべき
なんですよね・・・。

新刊書店を題材にした作品といえば、大崎梢さんの『配達あかずきん』シリーズが
有名ですが、あちらとはまた違った魅力のある作品集でした。シリーズがもっと
続くといいなぁ。


では、一応各作品の感想も。ネタバレ気味なので、未読の方はご注意ください。


『7冊で海を越えられる』
もうじき海外に行くという男性客の自宅に、恋人から何のメッセージもなく七冊の本が送られて来た。
作者もジャンルもバラバラの七冊は、突然海外に行ってしまう恋人に対しての、彼女からのメッセージ
だった。青井たちは解読出来るのか。
暗号の解読自体はオーソドックスな手法なのですが、それを解読する上で、送られた客の性格を
利用する点などは良く考えられているなぁと思いました。恋人の性格を熟知しているからこその
暗号ですね。ある規則で並べるだけで暗号が解読出来てしまうという。本を送った恋人の正体にも
驚かされましたしね。

『全てはエアコンのために』
夏の熱い最中、青井が働く書店のエアコンの調子が悪くなった。お盆前に来てくれそうな
業者が見つからず、途方にくれている中、一人の男性客がやって来る。相談事があるという
その男性は、実家がエアコン修理などを請け負う業者だという。店長は、エアコンを早急に
修理することを交換条件に、男性の相談に乗ることを決めてしまう。男性の相談とは、引っ越しの
最中、手伝ってくれた友人が、鞄に入れておいた有名作家のサイン本を盗んだのではないかと
いうものだった――。
本を盗んだ方法に関しては、半分までは想像がついたのですが、カ○ーの部分までは推理
出来なかったです(ツメが甘い^^;)。でも、盗んだ動機はちょっと?だったかなぁ。
普通に本屋で買って、本棚に差しておくだけで十分だったのでは?いくら作家本人が部屋に
来るからって、自分の本の中身までは確認しないと思うけどなぁ。

『通常業務探偵団』
人気作家蓮見喬のサイン会が青井の書店で行われることになった。販促ポスターにもサインを
してもらい、目立つ位置に貼った。そのおかげもあってか、当日は大盛況で、滞りなく終わった。
しかし、翌日、店の入り口の自動ドアのところにテディベアのぬいぐるみが吊られ、蓮見のポスターに
ピンクのペンで笑顔の顔文字と般若心経が落書きされていた。青井たちがその夜の防犯カメラを
確認してみると、深夜に犯人らしき人影が映っていた。しかし、犯人が去ったと思われるその時刻、
車のライトで一瞬照らされたポスターには、まだ落書きが書かれていなかった。その後犯人が出入り
したというオートロックの記録はない。犯人は一体いつ、どうやって落書きをして行ったのか――。
犯人がどうやって落書きをしたのか、という部分に関しては、なるほど、と思いました。防犯カメラ
の特質を生かした犯行方法ですね。動機に関しては身勝手さに腹が立つばかりでした。

『本屋さんよ、永遠に』
青井が勤める本屋の営業状態が日に日に悪化している。そんな中、返本する雑誌の付録の
部分に、クレームのような、奇妙な怪文書が挟まっているのが発見された。店長は真剣に
取り合わず、万引き親子にも、疲れた様子で寛大な対処をするだけだった。怪文書はその後も
見つかり、ついに関係者を夜中に招集する文章が。店長は無視するように言うが、青井は
夜を待って乗り込むことに。店の近くで張り込んでいると、店から火災報知機の音が鳴り響き、
ガラス越しに炎が出ているのが見えて――。
万引き親子の態度には呆れ果てました。この親にして、この子あり、の典型じゃないでしょうか。
書店が抱える万引き問題が深刻なことは、いろんな作品で読んで知っているけれど、本当に
腹立たしいことです。小さな書店では、なかなか対応しきれないでしょうしね・・・やりきれません。
店長の態度には違和感ばかりを覚えていたのだけれど、こういうことでしたか。途中から、
一ノ瀬さんって、もしかして?とは思っていたのだけどね。書店に火をつけた犯人に関しては、
怒りしか覚えないけれど、そこまで思いつめる程、状況が逼迫していたのでしょう。だからって、
やっていいことと悪いことの区別はつけなければいけない。書店に関わる人間ならば、なおさら、
この犯罪だけはやってはいけなかったのではないかと思いました。



毎度お馴染みの脚注も楽しいですし、あとがきの面白さも相変わらずでした。
作中で、ちょこちょこと実在の本や作家さんの名前が登場するのも嬉しかったです。
本好きならば、間違いなく楽しめる一作ではないでしょうか。