ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖「こうして誰もいなくなった」/秋川滝美「田沼スポーツ包丁部!」

こんばんは。もうすぐGWですねー。今年は巷では10連休だそうで。
私はちょこちょこ出勤する予定なんで、あんまりいつもと変わらない(苦笑)。
みなさん10連休何されるんですかね。旅行とか行かれる方も多いのかな。
私は、世間が休みの時に旅行に行こうとは思わないんですけど(混むし高いし)、
こういう時じゃなきゃいけない人も多いですものね。


読了本は二冊ご紹介。


有栖川有栖「こうして誰もいなくなった」(角川書店
有栖川さんのノンシリーズ短編集。火村・江神シリーズ以外の有栖川さんの
作品集って久しぶりじゃないですかね。幻想・ホラー・ファンタジー・ミステリー
取り混ぜて、なかなかにごった感満載の作品集。長さもまちまち。ラストの
表題作だけやたらに長い中編。2、3ページの掌編なんかも入ってたり。掲載場所も
いろいろだったみたいで。朗読用に書かれたもので、初めて活字になったものも
あるようです。ちょっと掴みどころのないものも多かったかなぁ。ミステリじゃない
作品は特に。オチまで読んでも『・・・で?』みたいな。まぁ、あえてそういう
作品を狙って書いているとは思うけど。不思議の国のアリスにインスパイア
された『線路の国のアリス』なんかは、奇想天外なファンタジー。電車好きの
有栖川さんらしいアリスの物語ですね。文字で線路を表したページがあったり
して、遊び心も満載。『劇的な幕切れ』は、以前アンソロジーで既読。突然
震災が出て来たことで、心中する男女に劇的な幕切れか、と思いきや、のあの
ラスト。皮肉な結末でしたね。『未来人F』は、ポプラ社から出た少年探偵団
をモチーフにしたアンソロジーで既読。いろんな作家の少年探偵団像が読める
なかなか面白い趣向の作品集でしたね。改めて読んで、ラストのオチは必要なのか
意見が分かれるところだろうなぁと、改めて思わされました。活字ならではの
オチっていうか。映像化されるとしたら、また違った表現になるところでしょうね。
書店が舞台の『本と謎の日々』は、一番好きな作品。これも実はアンソロジー
既読だったんですけど。有栖川さんって、デビューして以降も、結構長いこと
書店員と作家の二足のわらじを続けてらしたそうで。書店員だったとは全然
知らなかったです。経験した人ならではの書店あるあるネタって感じ。新刊書店
での日常の謎っていうと、大崎梢さんの作品を思い浮かべますが、有栖川さんの
この作品も是非シリーズ化して欲しい。浅井店長のキャラも良いし。同じ本を
二冊買ってしまって返品しに来た女性の態度にはムカっとしましたが。自分が
確認しないで買ったのに、書店側に『気をつけてください』とか、何様なのって
思う。店長が推理した理由には納得したけど、彼女の態度にはやっぱり納得が
行きませんでした。POPを二回盗んだ男の動機にも唖然としましたけどね。
書店側としては買えよ!って言いたくなるでしょうね。私からすれば『覚えろよ!』
かな(苦笑)。
ラストを飾る表題作『こうして誰もいなくなった』は、やっぱり、一番力入れて
書かれたのがわかる中編。タイトルからもわかるように、クリスティの『そして
誰もいなくなった』を下敷きにした、孤島での連続殺人事件を描いたクローズド
サークルミステリー。なんか、読んでる間中ずっと、金田一少年っぽいなーと
思って読んでました。最近、新シリーズの金田一少年(中年になってるやつね)
読んだばかりだったかもしれないですけど(笑)。設定なんかも、それっぽい
んだもの。セレブばかりが集められるとか、モデルの美女が混ざっていたりとか。
使用人は中年の平凡な夫婦で。いろいろと意味深な伏線なんかもあったりして、
読み応えありました。事件の真相は、なるほど、と思えるものではありましたが、
ただ、犯人はそれほど意外でもなかったかなぁ。ラスト二人になったあとの真相も
結構拍子抜けだったし。でも、こういう『いかにも』な本格ミステリはやっぱり
読んでいてとても楽しいし、ワクワクしますね。
探偵の響のキャラは、いかにもオーソドックスな名探偵像って感じ。悪くはないけど、
さほど個性もないので、本当にこの作品用に考えられたキャラなのかな。
ミドルネームのフェデリコの理由にずっこけました(苦笑)。まぁ、確かに、
これがあると名探偵っぽい響きになりますけどね(笑)。また出て来る可能性は
あるのかなー。


秋川滝美「田沼スポーツ包丁部!」(幻冬舎
高校の料理研究部(正しくは包丁部ですが)を題材にした『放課後の厨房男子』
シリーズで主役だった、勝山大地のその後を描いた新シリーズ(?)。高校を卒業し、
なんとか大学に滑り込み、四年を無事に終えた大地が、就活の末就職したのは、
スポーツ用品を主に扱う田沼スポーツ。しかし、なぜか大地が配属されたのは、
アウトドア用品を扱う営業部だった。慣れない仕事に戸惑うばかりの大地だったが、
教育係の佐藤は丁寧に仕事を教えてくれる優しい先輩で、佐藤のもと、必死で仕事を
覚える日々だった。そんな中、ある日大地は佐藤が以前お世話になった
という商品開発部の課長、清村と知り合う。清村と知り合ったことが、なぜか
回り回って田沼スポーツ包丁部を起ち上げ、キャンプ用のアウトドア料理を
作る羽目に。大地の田沼スポーツでの包丁部の活動が始まった――。
高校で、陸上が出来なくなって仕方なく入った包丁部の活動が、就職先でも
役立つことになる、というのが面白いですね。人生、何事も経験だよなぁと思わされ
ます。高校の時の大地って、そこまで料理が上達したって印象がなかったんですけど、
やっぱり毎日やってたんだから、相当上達していたんですね。今回の大地の料理の
レパートリーの広さや手際の良さには驚かされました。作るお料理はどれも
本格的で美味しそうでしたし。野外飯もどれも美味しそうでしたねー。
最近巷ではキャンプブームだったりするから、なかなかタイムリーな題材だった
のではないかなぁ。私自身は、キャンプなんて幼い頃以来やってないけれど。
河原でバーベキューしたのも、20代までだったなぁ。今は簡単に設営出来る
テントなんかもたくさんあるし、便利なキャンプグッズもたくさん出ているから、
大地のいる部署の商品はこれからもっと売上が伸びて行くんじゃないかな~。
清村夫妻や先輩の佐藤とキャンプに行くシーンは楽しそうでいいなーと思いました。
大地にしてみれば仕事の一環なんですけど^^;自分で釣った魚をその場で
調理して食べるって、理想ですよねぇ。魚は基本的にはそんなに好きじゃない
んですけど(おい)、やっぱり新鮮なまま調理したら美味しそう。大自然の中で
みんなで火を囲んで食べるっていうのがいいんですよね。
高校時代同様、いい人キャラ炸裂の金森君が、今回もとてもいい味出してました。
金森父もいい人でしたし。大地はほんと、周りの人に恵まれるタイプですね。
大地自身が基本的に真面目で人がいいから、自然といい人が集まるなってこと
なのかもしれないですけどね。
残念だったのは、末那高の先輩ふたりの登場がなかったこと。まぁ、当然ながら
先輩二人もいい社会人になってるでしょうから、大地に付き合ってる暇はないのかも
しれませんが。今後登場する可能性はありそうかな。
終盤はちょっとご都合主義な感じもありましたけど、包丁部で培った知識で
いろんなことを乗り越えて行く大地の成長に嬉しくなりました。