ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「ソロモンの犬」/文藝春秋刊

道尾秀介さんの「ソロモンの犬」。

大学生の秋内は自転車便のバイト中に、親しくしていた大学教授の息子・陽介がトラックに
撥ねられる瞬間を偶然目撃してしまう。現場には秋内の大学の友人である京介、智佳、ひろ子
も居合わせていた。陽介は突如走り出した愛犬に引かれるようにして歩道に飛び出してしまった
のだ。愛犬は何故走り出したのか?偶然居合わせたかに見えた友人たちは陽介の死に関わりが
あるのだろうか?――ほろ苦く切ない青春ミステリ。


ようやく回って来ました、道尾さん新刊です。大学生4人がメインの青春ミステリ。道尾さん
らしくいろんな仕掛けが施され、なかなか楽しめました。ただ、衝撃度で言うと「シャドウ」
を上回る作品ではなかった。もちろんすっかりミスリードはされましたが^^;いろいろ書こうと
するとなんだかネタばれになってしまいそうなので、細かく書けないのが辛いところ^^;こういう
ミステリの感想は難しいです・・・。主人公秋内のキャラは突っ込み所が満載で(笑)、なかなか
面白かった。それだけに謎解きの途中でショックを受け、作者に文句を言いたくなったのだけれど、
それもまた作者の仕掛けた罠だった訳で・・・終盤はたたみかけるようにいろんな仕掛けが明らか
になるので、細かい伏線を思い出しつつ追いかけるのに必死でした。思えば、道尾さんの仕掛けは
始めの一ページ目から始まっていたのですね。最初から違和感を感じながら読んでいたのは確かなの
だけれど、あそこがああいう風に繋がっていたのかーと、謎解きを読んで感心。お店の名前も意味深
だなぁとは思っていたけど、まさか○○○○に繋がっているとは誰も思うまい。やや苦しいとも思う
けど、苦しくて当然の伏線だから納得せざるを得ない・・・だって、秋内の(ネタバレの為省略)。
うん、やっぱり道尾さんは巧いな。

主要キャラ4人の恋愛模様はいかにもありふれた月9ノリではあるけど、秋内君の妄想っぷり
がなかなか楽しい。だいたい、好きな女の子に話しかけるののに、「話しかける言葉メモ」
を書く時点でどこの時代の大学生だよ!と突っ込みを入れつつも笑ってしまった。智佳ちゃんに
言いたいことを自分の家の留守電に吹き込んだりとか、どこまで純朴なんだ!(笑)
動物生態学の間宮教授のキャラも良かった。一番好きなのはテーブルにいるCの形のトカゲに
ビーカーに入ったコーヒーが置かれて℃になるところ。いやぁ、その姿を想像すると楽しい楽しい。
こういうセンス好きだなぁ。うちの兄が高校の時にどっかから買って来たビーカーにコーヒー
を入れて飲んでいたのを思い出しました(ご丁寧に薬さじまで買ってあった)。

犬の習性についての薀蓄も知らないことばかりだったので勉強になりました。犬は視力が弱い
とか、一定の色で物を認識するとか。オービーが亡くなってしまった飼い主の陽介をいつまでも
待ち続けるエピソードが切ない。それでも、彼は新しい主人の間宮と出会えて本当に良かった。
最後のオービーの行動、私は新しい主人を捜してのことだったと思いたい。その方がオービーも
幸せになれるから。


ラストはなかなか爽やかで読後感は良かったです。途中の展開を考えると、ここまで読後感が
良くなるとは思わなかった。京介の取った行動だけは女性として許しがたいし、最後まで理解
できなかったですが(したくもない)。
どちらかというと、ミステリ的な仕掛けよりも青春小説として楽しめた一冊でした。