ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「光」/光文社刊

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道尾秀介さんの「光」。


利一は小学四年生だった。仲良しの慎司、慎司の姉の悦子、ことあるごとに実家が裕福なのを
ひけらかす宏樹、貧しい上に母に先立たれ祖母とふたり暮らしの清孝。彼らは、ことあるごとに、
一緒にいた。行方不明の野良犬ワンダ、近所の湖近くの洞窟での怪異、崖崩れでみつかった化石、
そして、親しい友人の、哀しい理由による転居……。彼らの前には、簡単には解決できない「難問」
がたくさん出現する。世界は果てしなくて、利一たちはまだ子供だった。けれど、彼らは無謀
だった。どこまでも、自分の足で歩いていけると、疑っていなかった……。闇と光の作家・
道尾秀介が、柔らかくも精緻に書き上げた、少年小説のネオ・スタンダード(紹介文抜粋)。


我らがミッチー最新作。と言っても、予約に乗り遅れたので出てから大分経ってしまってますが^^;
最近は予約に乗り遅れてばっかりだなぁ。まぁ、すぐに回って来られても、なかなか引取りに
さえいけない状態なので、のんびり予約待ちしてる方が気楽なんですけども。

さすがにそろそろミステリ書いてくれるかなぁ、とちょっと期待して読み始めたんですけど、
またもノンミステリ作品でした。いや、謎らしき部分や、ちょっとしたミステリ的な仕掛けも
あるにはあるんで、広義に考えればこれもミステリの範疇に入ると言えるのかもしれない
ですけど。
まぁ、普通に読んだら、少年少女の様々な体験を描いた青春小説、と捉える人が多いんじゃ
ないでしょうかね。別に無理にジャンル分けしなくてもいいとは思うんですけど^^;
道尾版スタンド・バイ・ミーだと捉える人も多いようです。言われてみれば、確かに、
そんな感じ。仲間たちと過ごした少年時代のいくつもの思い出。真剣にバカみたいなことを
やっては、大人たちに怒られたり呆れられたり。ワクワクドキドキの思い出もあれば、背筋が
凍るような怖い思い出もあり。少年たちの体験に、私もその時々でワクワクドキドキハラハラ
させられました。道尾さん、本当に文章が上手くなったなぁ、としみじみ思わされることしばしば。
少年たちの心理描写や情景描写がとてもリアルで、読んでいて、その時々の情景が鮮やかに頭に
浮かび上がりました。
子供たちそれぞれのキャラ造形もしっかり出来ていて、一人一人個性がしっかりしているので、
この手の小説にありがちな、仲間の中の誰かと誰かを混乱してしまうようなことは一切なかった
です。
特に、清孝のキャラが良かったなー。そして彼の祖母のキュウリー夫人のキャラも最高。
最初はくそ意地の悪い嫌なキャラなのかと思ったのだけど、全然違ってました。孫思いの、とっても
優しくて、とっても強い、素敵なおばあちゃん。清孝が母親を亡くした時の、二人のエピソード
にはじーんとしてしまいました。そして、おばあちゃんの為に何かを吹っ切ろうとした清孝の
健気さに胸が切なくなりました。小学四年生にしていろんなことを諦めて、強くならなければ
いけなかった彼の境遇が、とても悲しかった。でも、彼には最強のおばあちゃんと、素敵な仲間が
いた。それだけでも、随分救われたんじゃないのかな。
それだけに、キュウリー夫人が病気になった時は、清孝の今後が心配になりました。でも、
終盤で明かされるキュウリー夫人のその後が、意外に逞しかったのが嬉しかった。さすが、
転んでもただじゃ起きない人だなぁ。利一たちのピンチでの大活躍もすごかったですしね。彼女
なくしては、この小説は成立しなかったでしょう。これだけ強烈な老女もなかなかいないのでは
ないかしら。
もちろん、犬のワンダの存在も良かったですね。キュウリー夫人とのコンビは最強でした。
利一の亀のダッシュも可愛かったです。冬眠のエピソードには笑ってしまいました(笑)。
亀って冬眠するんですねぇ。知らなかった。昔、私も実家の庭の池で亀飼ってたことあるん
だけどな。

基本的に、老人と子供と犬が活躍する小説は大好きなので、まさに本書は私のツボをついた
作品で、とても面白かったです。一作ごとに子供たちの冒険を丁寧に描いているのが良かった
ですね。
懐かしく、ちょっぴり切ない郷愁をそそるような情景描写もさすがでした。

あと、いくつかちょっとしたミステリ要素も入っていたのですが、一番驚いたのはそれぞれの
章の終わりに挿入されてる独白の部分。わかってみれば、ある一点の表記で気づけた筈なのに、
全然わからなかったです^^;
ただ、利一がなりたい職業については、随分後まで引っ張ってましたけど、結構すぐに
ピンと来てしまいました。まぁ、これは大抵の人が見当がつくと思うけど^^;

それぞれの冒険について、書きたいことはいろいろあるんだけど、キリがないので割愛。
しかし、デパートの大理石にアンモナイトの化石が埋まってるなんて、ほんとにあるのかなぁ。
ちょっと、探してみたくなってしまった(笑)。


少年少女の冒険に夢中になって読んだし、とても好きな小説だったのは間違いないのですけれど。
ただ、それでもやっぱり、一発逆転、どんでん返しの道尾ミステリがもう一度読みたい、と
思ってしまうのは、贅沢な要望なのかなぁ・・・。
私はやっぱり、直木賞作家の道尾、じゃなくて、どこまでもミステリ作家の道尾、でいて欲しい
んだなぁ。
と、ミステリファンのたわごとをつぶやいてみるのでした。