ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

五十嵐貴久/「シャーロック・ホームズと賢者の石」/光文社カッパノベルス刊

五十嵐貴久さんの「シャーロック・ホームズと賢者の石」。

探偵業を引退した後、神経症の症状を悪化させたホームズは、静養の為ワトソンと供に
ニューヨークへ来ていた。新しく建ったばかりのプラザホテルに滞在し、のんびりした
生活を送るホームズは日に日に健康を取り戻していた。そんなホームズの元に、高名な
歴史学者のヘンリー・ジョーンズ教授が訪れる。ホームズに「誘拐された一人息子を救って
欲しい」と言うのだ。教授は先ごろ、「賢者の石」と目される貴重な鉱物を発掘したとして、
世間の注目を浴びていた。教授は、その石を狙ったドイツ軍たちの仕業に違いないと主張
するのだが――(「賢者の石」)。ホームズのパスティーシュを集めた傑作小説4編を収録。


ええと、恥ずかしながら私はホームズの原作を読んだことがありません。以前NHKで放映された
ドラマは夢中になって観てはいたのですが・・・。なので、ホームズに関する知識はないに等しい。
そんな私がなんでこの本を手に取ったかというと、なんだか題名がハリーポッターみたいで
面白そうだったから。連作短編だし、日本人が書いたものなら読みやすいだろうという軽い
気持ちで借りてみました。

結果は、思った以上に楽しめました。本当に読みやすくて、あっという間に読み終わってしまった。
一作目の「彼が死んだ理由」の展開にはいきなり面くらいましたが・・・。これはファンから苦情
が来たりしないのかな~^^;
実は最後まで何かどんでん返しがあって、この二人は違う人物なのだろうと勘繰っていたのですが、
そのまんまだったのでちょっと拍子抜け。このラストは後味悪すぎです^^;;実は、これと次の
「最強の男」辺りまでは、読みやすいけど、内容はいまいちかな、という感想でした。

でも、表題作の「賢者の石」と、続く「英国公使館の謎」はとても良かった。「賢者の石」の
密室の謎はなーんだ、というようなものでしたが、盲点といえば、盲点。ヘンリー・ジョーンズ
ジュニアの好奇心旺盛なキャラがとても良かった。あの映画は私も大好きでしたが、父親の
名前なんて全く覚えていなかったので、ラストで「あ~、そうかー!!」と思いました。
わかる人にはすぐわかるのかなぁ。ジュニアがあの人物だとは。こういうリンクは嬉しいですね。
「英国公使館の謎」は一番ミステリらしい作品。犯人も意外でしたし、犯人の正体がアノ
人物だという所には素直に驚きました。英国という所にポイントがあったんだなぁ。
アノ人物が日本人だったというのは、あまりにも大胆な説のような気もしますが、こうやって
書かれると妙に納得出来るものがありました。なかなかやりますね、五十嵐さん。

シャーロキアンならば間違いなく楽しめるでしょうし、それ程知識のない私でも普通に
楽しめるミステリでした。ホームズのパスティーシュはたくさん先行作があると思いますが、
きっとそれらと比べても遜色ない出来なのではないかな(ほとんど読んだことないので憶測ですが)。
巻末にホームズ全集の訳者による過去から現在に至るまでのホームズパスティーシュ
解説も興味深く読みました。ほんとにミステリ作家にとって、ホームズのパロディというのは
一度は書いてみたい題材なのでしょうね。

でもイラストが気に入らなかった。怖すぎだよ、この絵~^^;石川絢士さんの表紙はとても
いいのに。何故イラストもお願いしなかったんだー。このイラストだったら、入ってない方が
良かった。ホームズ、目つき悪いし病的だし^^;私の中のホームズのイメージはNHKドラマの
ダンディなおじさまなのに~(それもある意味間違っているのか!?)。

実在する歴史上の人物なども上手く物語りに絡ませて、原典を上手くリスペクトしながら
独創的な作品に仕上げる手腕はなかなかです。
この方の作品は他に「Fake」しか読んでないけど、他のも読んでみようかな。