ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

法月綸太郎/「しらみつぶしの時計」/祥伝社刊

法月綸太郎さんの「しらみつぶしの時計」。

閉ざされた施設の回廊にランダムに置かれた1440個の時計。全て異なる時間を刻むこの時計
の中からたった一つだけ正確な時間を刻むものを選べ――与えられた命題に正解すればこの施設
から脱出できる。きみに与えられた時間は6時間。答えるチャンスは一度きり。刻一刻と迫る
イムリミットの中で、きみの論理は勝つことが出来るのか(「しらみつぶしの時計」)。
表題作他、全10作の短編を収録。


のりりん新作です。書店で見かけた時、装丁のかっこよさ、表題作のあらすじの面白さに惹かれて
是非読みたいと思っていた作品。実は長編だと思って読み始めたら短編だったので、弱冠拍子抜け
した部分はあったのですが^^;一応ノンシリーズものばかりを集めた短編集を目指したよう
なのですが、ラスト一作だけはボーナストラック的扱いで法月シリーズが入ってます。
ただ、デビュー前に書かれた法月シリーズの原型的な作品で、まだ試行錯誤中だったらしく、
綸太郎の字が林太郎だったり、設定が微妙に違ったりしてちょっと違和感を覚える作品でした。
名前の表記くらいは変えても良かったんじゃないか?と思ったのですが、あとがき曰く修正は
最小限にとどめ、原文のまま収録させたとのこと。デビュー前の習作が読めるというのもファン
には嬉しいですものね。

ただ、全体的な出来というと、これがこの間読んだ有栖川さんの短編集とほぼ同じ感想。冒頭
の三作は同じ系統の作品でなかなか良い感じだったんですが、その後はもう、いろんなとこから
寄せ集めてきちゃったという感じで全く統一感がない。しかも、一つ一つの出来がこれまた微妙。
ミステリ以外の作品も混じってるし、パスティーシュなんかも入ってるしなんでもアリって感じ。
私としては端正なロジックの本格ミステリが読みたかったので、満足できる作品があまり
なかったです。表題作が一番がっかりだったかな。楽しみにしていただけに、あのオチには
脱力。だいたい、論理は論理でも、ああいうロジックのものはあまり好きではないです。
「猫の巡礼」は猫好きならば楽しめる作品かもしれませんが、この短編集の中ではかなり
浮いてしまっている感じ。一番不満は、作中で意味深に出て来る『家猫が巡礼に行くと性格が
変わって帰って来る』という説話が何の伏線にもなってなかったこと。オチがあっけなさすぎて
物語としての盛り上がりに欠けるように思いました。

パスティーシュものは原典の都筑作品を読んでいないので、あまりピンと来なかったし、
作品としてもいまひとつ・・・。全体的に、キレのあるロジックの推理というのがあまり
なかったように思いました。記憶に残りそうな短編はなかったなぁ(表題作なんかは違う意味で
忘れられなそうですが^^;)。まぁ、短編で記憶に残るもの自体あまりないんですけどね^^;
やっぱり法月シリーズじゃないとちょっと読むテンションが下がりますね(昨日のアリス同様)。
そういう意味ではやっぱりラストの一作は嬉しかったですね。『林太郎』ですけど(笑)。

それにしても、装丁は惚れ惚れするほどかっこいい。でも、目次や各作品のタイトル字の
デカさに笑ってしまいましたが(苦笑)。
これなら老眼のおじいちゃんでもはっきり見えるよね(タイトル字だけはっきり見えて
どうする^^;)。