岡本綺堂さんの「白髪鬼」。
明神跡で聞こえる不思議な啼き声の正体は?(「こま犬」)。壇ノ浦から落ちのびた平家の美女の
たましいを宿らせた幽霊藻にとり憑かれた女の末路とは(「水鬼」)。中間が運んだ風呂敷包みの
中の西瓜が女の生首に――(「西瓜」)。弁護士試験場に毎回現れ試験を不合格に陥れる白髪の
女とは――(「白髪鬼」)。妖しく幻想的な怪異譚十三編を収録。
突然どうした?と思われそうですが、たまには古典を読みたいなーと思って何となく手に
取りました。先日読んだ五十嵐貴久さんの「シャーロックホームズと賢者の石」でちょうど
岡本綺堂の名前があがったこともきっかけのひとつ。そういえば、一冊も読んだことない
よなーと思いまして。
あまり深く考えずに選んだので、できれば推理物が読みたかったのに、読んでみたら
怪異譚だったという^^;ホラーという程怖くはないのですが、どの作品もすーっと
背筋が寒くなるような独特の雰囲気のあるものばかり。短編なのでやや結末があっけない
ものが多かったですが、余韻の残るものが多く、なかなか楽しめました。何より、この
古臭い文章がいいですね~(褒めてます)。綺堂の真骨頂は江戸ものらしいのですが、
本書では江戸よりも時代は新しいものが多い。でも時代が新しくても怪談としての
怖さを損ねていることはないので、あまり気にならなかったです。
では気に入った短編ベスト5
1.「白髪鬼」
ラストで明かされる白髪鬼の正体に唖然。これはミステリとしても読ませる一作ですね。
一番怖いのは幽霊でも妖怪でもなく・・・。
2.「西瓜」
風呂敷の中から生首が現れるというシチュエーションがすでにホラー。西瓜になったり生首に
なったり、想像するとかなりシュールなんだけどどこかコミカルにも感じる妙な印象の作品。
ただ、西瓜が生首に変わった理由の説明はいまいち腑に落ちなかったですが・・・。
3.「離魂病」
綺堂版ドッペルゲンガーもの。ドッペルゲンガーという名詞はどこにも出て来ませんが、
この手の都市伝説的な言い伝えはこの頃からあったものなんですね。自分と同じ顔の人間
に会ったら死ぬというシチュエーションはやっぱり怖い。
4.「木曾の旅人」
日本昔話を読んでいるかのような土着系怪異譚。旅人の正体が最後までわからずはらはら
しました。てっきりヤマンバのような妖怪なのかと思いきや・・・。怪談を期待していると
裏切られる展開かもしれませんが、私は結構好きでした。
5.「水鬼」
作品の美しさでは随一。平家の官女の怨念がこもった幽霊藻という設定がなんとも妖しくて
好み。ぞくっとするラストの余韻も良かった。
今は新しい作家がどんどん出てくるので、なかなか昔の作品を読むという機会がないのですが、
やはり古典を読むのはいいですね。独特の雰囲気を持った文体と世界観に魅せられました。
またたまにはこうやって古典回帰をしたいものです。