ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「逢魔宿り」(角川書店)

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三津田さん新刊。作家三津田が集めた怪異譚をまとめた、お馴染みの形式の作品集。

5つの怪異が収められています。今回もバラエティに富んだ、背筋がぞくっとする

怪異が語られていきます。このシリーズはどこまでが実話でどこからがフィクション

なのか、さっぱりわからないところが一番怖い気がする・・・。作者の著作なんかは

実在のものがそのまま使われているし。出て来る編集者の人なんかは架空の人物が

多そうな感じがするけど、実在しそうな人も出て来る気がするし。まぁ、作者も

その辺りは意識してボーダーレスな感じで書かれているのだろうけど・・・。

作中に出て来る、三津田が蒐集した怪異も、実際見聞きしたものも入っていそうな

リアルさが怖い。基本ホラーは苦手なんだけど、三津田さんのホラーは単にホラー

で終わらないところが個人的にツボで、ついつい新刊が出ると読んでしまうのよね。

今回のも、ラスト一編が、他の四編を受けての作品になっている辺りはさすが。

あと、個人的には二作目の『予告画』の小学校教師の体験談の話が、ラストで

しっかりミステリになった所に一番感心しました。悲劇的な未来を予知した子供の絵

には、ある人物に対する悪意が潜んでいた、という展開にぞくぞくさせられました。

巧いなぁ。

奇妙な宗教施設の夜警の仕事をすることになった男の恐怖体験を描いた『某施設の

夜警』も印象的だった。怪異のデパートって感じで、これでもかと奇妙な体験が

目まぐるしく押し寄せてくる展開に圧倒されました。文章で説明されても、ちょっと

状況がわかりにくくて混乱したところもありましたが。こんな仕事は絶対やりたく

ないですよ・・・いくら高給でもね。

冒頭の『お籠りの家』は、刀城言耶シリーズみたいな旧家の因習が絡んだもので、

雰囲気は最高に好み。父親に連れられて行った田舎の大きなお屋敷で、なぜか

7日間の『おこもり』を強いられる少年の話。そこでのおこもり中、少年は

同じ年頃の少年と友達になるのだが、なぜか少年は家の敷地の中に入って来られず、

敷地の外で遊ぼうとしきりに誘って来る。始めは拒否していたものの、ついに

少年の誘いに抗えずにルールを破ってしまった語り手の少年は、しだいに恐ろしい

怪異に遭い出す――というもの。少年時代にこんな怖い思いしてたら、そりゃ

トラウマになるよなぁと思いました。

四作目の『よびにくるもの』は、三津田さんらしい割合オーソドックスな怪異譚。

体調を崩した祖母の代わりに、旧知の家の法事に参加して香典を供えて来ることに

なった女子大生の体験談。その経験をしてから彼女は奇妙なモノにつきまとわれる

ようになってしまう、というね。多彩な擬音語で表現される『よびにくるもの』

描写がなんとも怖い。三津田さんの擬音ってなんか怖いんだよね。一人で読んでたら

もう。ひー。

最終話の『逢魔宿り』は、雑誌に載った上記四つの体験談を読んだ大阪の装幀家が、

久しぶりに三津田に連絡を寄越し、自らが散歩で訪れる公園の四阿で体験した

出来事について語り出すお話。装幀家の体験と、四つの体験談の奇妙な相似に

関しては、さすがにちょっとこじつけ感があった気もしました。でも、こういう

奇妙な相似って、小説とか読んでても、たまに起きることがあります。同じ

名前の登場人物が出て来る小説続けて読むとか、似たようなテーマの物語を偶然

続けて読むだとか。何か『続く』んですよね、そういのって。ホラー読んだら、

なぜか続けてホラー小説ばかり予約が回って来るとかもあるな。ホラーなんて

めったに予約しないジャンルなのにね。京極堂『この世には不思議なことなど

なにもない』というけれど、やっぱり、世の中には不思議なことが溢れているもの

なんですよねぇ。

ま、現実では、本書で出て来るような怖い体験は御免被りたいですけどね。