ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗/「噂の女」/新潮社刊

イメージ 1

奥田英朗さんの「噂の女」。

町で評判のちょっと艶っぽいイイ女。雀荘のバイトでオヤジをコロがし、年の差婚をしたかと思えば、
料理教室で姐御肌。ダンナの保険金を手に入れたら、あっという間に高級クラブの売れっ子ママに。
キナ臭い話は数知れず、泣いた男も星の数――。地方都市に暮らす人々の愛と悲哀と欲望を描く、
奥田節爆裂の長編小説(紹介文抜粋)。


奥田さんの最新作。一人の女を巡る群像劇・・・なのかな?一章ごとに主人公や登場人物は
変わるのだけれど、その中心で噂に上るのは、常にある一人の女。いろんな噂が絶えない
その女の本性が、一作ごとに明らかになる、というお話。

いやー、とにかく、中心に出て来る『噂の女』が強烈。最初の段階では、顔は美人とは
言えないけれども、身体つきは色っぽく男好きのする、単なる雀荘のアルバイトなだけ
かと思ってたんですが・・・一作ごとに、その性悪さが明るみに出て来て、その強かさ、
狡猾さに目を瞠るばかりでした。その時々で全く違う顔を見せるので、一体どれが彼女の
本性なのかさっぱり見えて来なかったですけど。ただ、彼女が危険な人物であることだけは
早い段階でわかっていたので、一体最後にはどんな悪事に手を染めるのかとドキドキしました。

実際にいたら絶対にお近づきになりたくないタイプではあるけれど、読者という第三者の目
から見ると、彼女の言動はいっそ爽快ささえ感じる部分もありました。料理教室での一件とか、
パチンコで知り合った若い女の子の手助けをしてあげるところとか。とはいえ、一見正義感とか
善意からのように見えるそれらの行動もすべて最終的には自分の得になるから、という裏があって、
ぞーっとさせられるのですけれど。

知れば知る程、女(美幸)の悪女っぷりにげんなりさせられたのも間違いないのですが、
ここまで行くと次は何が出て来るのか、とワクワクさせられるところも。同じ女として、身近に
こういう女がいたら絶対嫌悪感しか覚えないと思うんですけど。フェロモンまき散らして、
男を手玉に取って、最後全てを吸い尽くしたらゴミのようにポイッと捨てて、また次の
ターゲットを探す。
なーんか、実際にいそうですけどね。こういう女。そうそう、少し前に話題になった練炭殺人
の女って、きっとこんな感じだったのかも。なーんか、男を惑わす何かを持ってるんでしょうね。
私が同じことやろうとしたって、絶対成功しないってわかるもの。悪女って、きっと、根っからの
素質がないとなれないんじゃないかしらん。この作品の主人公美幸にも、悪いことをしている
っていう自覚なんかないんじゃないのかなって思うくらい、悪事を働く際でも堂々としているん
だもの。

美幸のような悪い女には、誰かにお灸をすえて欲しかった所ですが、最後まで彼女は狡猾でした。
勧善懲悪にならないところが、奥田さんならでは、ですね。まぁ、そこで力尽きるような女
じゃないことは、それまで読んでればわかりますけれど。でも、気持ちとしては、美幸が
降参する姿も見てみたかった気はするな。胸がすっとしたはず(苦笑)。

なんか、読んでて東野さんの悪女を思い出したんですけど。でも、奥田さんが描く、こちらの
女の方が、人間味はあるかも。東野さんの悪女は綺麗だけど無表情で、ロボットみたいな
冷たさを感じるけれど、こっちは美人でもなく肉感的で、下品な分、生きてる感じがするって
いうのかな。説明が難しいのですけれど(言葉足らずですみません^^;)。

人間の嫌な部分がたくさん垣間見えて、読んでいてげんなりするところも多かったですが、
お話としては面白かったです。

美幸は、現代の新たなダークヒロインと言って良いのじゃないでしょうか。まぁ、女性から
支持されるとは思えないですけど^^;でも、どちらかというと、男性より女性に甘い女って
ところは嫌いじゃなかったですね。普通こういう女は、同性には厳しい気がするんですけどね。

ブラックユーモアたっぷりの痛快悪女小説でした。賛否両論評価は分かれるかもしれませんが、
私は結構楽しめました。嫌な話でしたけどね^^;;