ミステリ読書録

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東野圭吾/「歪笑小説」/集英社文庫刊

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東野圭吾さんの「歪笑小説」。

禁断の小説業界舞台裏を描く、東野笑劇場!
新米編集者が初接待ゴルフで知った、「伝説の編集者」の仕事ぶり。自作のドラマ化に舞い上がる
作家。担当編集者に恋心を抱く小説家…小説業界をネタに、ブラックな笑いで贈る連作小説集
(紹介文抜粋)。


東野さんの文庫新刊。○○小説シリーズもこれで打ち止めだそうで。このブラックユーモア
シリーズ大好きだったから、かなり残念。でも、今までとはまたかなり味付けの変わった
作品集になってます。私は、東野さんは文芸界を皮肉った作品を書かせたら業界一だとかねて
から思ってるんですが、まさに本書はその頂点を極めたような作品。おいおい、ここまで
さらけ出しちゃっていいのかい?とこっちが心配になる位、出版業界の内情をぶっちゃけて
くれてます。作家や編集者側に立って、思いの丈を吐き出しまくった感じです。まぁ、東野
さんクラスの作家だから出来ること・・・かもしれないですねぇ。東野さんは、売れない
新人・中堅時代も経験して、そこから現在の大ベストセラー作家に上り詰めた方ですから、
売れない作家・売れてる作家、どちらの気持ちも理解出来るんですよね。だから、こういう
作品が書けるんだろうなぁ、と思いますね。

このブラックユーモアシリーズ、今までの作品は、ほんとに皮肉でブラックな結末のもの
ばかりでしたが、本書はちょっと違います。出版界を皮肉った作品が多いのは確かですが、
中には最後でほろっと感動出来たり、痛快に終わったりする作品が混ざっていて、なかなか
全体通して読ませる構成になってます。舞台が灸英社という、明らかに集英社をモデルに
した(笑)出版社で統一されていて、出て来る編集者や作家も度々重複しているので、
だんだん読んでるうちに、登場人物に愛着が湧いて行きました。本を読む上で、耳が痛く
なるような作家や編集者の主張も出て来るので、自省させられるところもしばしば・・・。
ラストの一編に出て来た図書館や新古書店を利用する男と光男の会話とか。胸にぐさぐさ
来ました・・・うう、作家と出版社のみなさん、図書館派でゴメンナサイ・・・(ToT)。

どれもとても面白かったのだけど、好きだったのはやっぱり最後でじんわり感動出来た
文学賞創設』『職業、小説家』かな。『罪な女』は、タイトルでオチが想像出来ちゃった
分、ちょっと残念な作品だったかも。
それにしても、出て来る作家名やタイトル名がいちいち可笑しくて、笑えました(笑)。
特に、『文学賞創設』で出て来た、天川井太郎賞の候補作のラインナップがすごすぎて(笑)。
『皺くちゃ少年、ぷりぷり婆さん』って(爆)。どんな内容だよ^^;まぁ、唐傘ザンゲ
の作品タイトルなんか、全部が全部トンデモないけど(笑)。巻末の灸英社文庫の既刊広告
のところに出て来たタイトルは全部すごい^^;何気に、唐傘ザンゲの最後に紹介されてる
『魔境隠密力士土俵入り』で、直木賞ならぬ直本賞受賞してるところとか、凝ってますね。
このタイトルで受賞したんだ~・・・とは思いますけど(それでいいのか、直本賞・・・)。
紹介されてる作品全部にいちいちあらすじまで考えてありますしね。それに、表紙の写真で積み
重なってる本も、全部作中に出て来る作品だし。わざわざ実物作ったんですねぇ。一つ一つに、
いちいち手が込んでいるので、東野さんと出版社の、この作品に対する熱の入れようがわかる
気がしました。
まぁ、ベストセラー作家の東野さんだからこそ、文庫なのに、ここまで凝った装幀の作品が
出来るんでしょうけどね~・・・(かなりお金かかってる感じが・・・)。多分、熱海圭介の
作品じゃ、絶対こういうことはしてくれないでしょうね(笑)。

作中に出て来た作品で一番読んでみたくなったのは、唐傘ザンゲの『虚無僧探偵ゾフィーかな。
『煉瓦街諜報戦術キムコ』も面白そうだけど、巻末のあらすじ読むと、ちょっと苦手なタイプの
作品っぽい・・・。ちなみに、『撃鉄のポエム』は遠慮しておきます(笑)。


いやー、とっても面白かったです。ブラックユーモア満載なんだけど、出版業界の内情にも鋭く
切り込んでいて、勉強になるやら、身につまされるやら。でも、基本的にはニヤニヤくすくす
笑いながら楽しく読める連作短編集でした。さすが、東野圭吾だね。