ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎/「ABCDEFG殺人事件」/理論社刊

鯨統一郎さんの「ABCDEFG殺人事件」。

18歳の堀アンナは、探偵事務所のアルバイト探偵。ある日突然両親を事故で亡くし、愛猫の
ダニエルも失って天涯孤独の身に。そのことが引き金で、突然耳が聞こえなくなってしまう。
しかし、聴力を失ったことが探偵事務所の所長に知られると首を切られる恐れがある為、内緒
で仕事を続ける。そんな中、巷を騒がせている首無殺人事件の被害者の娘が事務所にやって
来る。殺された父親の首を捜して欲しいと言うのだ。早速アンナは同僚の中川と供に捜査の為
被害者の死体遺棄現場に向かう。すると、アンナは不思議な『声』を聞く。どうやら中川には
聞こえていないようなのだが――聴力と引き換えに不思議な力を得た少女探偵が難事件を解決する
連作短編ミステリー。ミステリYA!シリーズ。


「ルビアンの秘密」に引き続き、鯨さんのミステリYAシリーズです。発想は面白いのだけど、
なんというか、微妙。そもそも、物語の核となっている或る設定が某作家の某作品とまるまる
同じなので、全く新鮮味がなかった。鯨さんがその作品を知っているのかどうかはわかりません
が、どうしてもその作品と比べてしまうのは致し方ないところでして。残念ながら作品の質も
そちらの方が上である以上、二番煎じの感はどうしたって拭えず、いまひとつ作品を楽しめ
なかった。
その上、主人公と親しくしていた人間が次々と悲劇に見舞われる展開にも唖然としましたし。
冒頭の一文で衝撃を与えるという意味ではこれ以上ない位衝撃的ではありましたが^^;
一番驚いたのは第二話の冒頭でしたが、続く第三話の冒頭を読んで作者の意図したいことが
読めてきました。それにしても中川の末路には驚いたなぁ。インパクトという意味では第二話
が一番ありましたね。
主人公アンナの性格はいまいち掴みづらく、感情移入しにくかった。だいたい、聴覚がなくな
ったのに、あんなに平然としていられるというのが釈然としない。いくらぼーっとした子という
設定にしたって、いきなり耳が聞こえなくなったらもっとパニック起こすと思うんだけど。
しかも、それを上司に黙って仕事を続けられるというのもあまり現実的とは思えなかったです。
聴覚異常の人の話し方が健常者と同じとは思えないし。どうも設定に無理があるような。

ミステリとしてはこのレーベルらしいゆるさではありますが、扱っている事件はテロや首無
殺人事件や一家三人惨殺事件など、かなり陰惨で猟奇的。幸か不幸か、主人公がトロイ性格で
全体的にとろーんとした空気が流れているのでそれほど暗い印象にはなってないのがせめて
もの救いですが。再び一人になってしまったアンナの元に集まってくる二人の新人が供に身体的に
問題を抱えているというのは弱冠ご都合主義的に感じないでもないですが、欠点があっても力を
合わせればやって行けるという前向きなメッセージを織り込みたかったのかな、と思いました。

ご都合主義といえば、毎回事件を解決した後、アンナの元にはなぜか大金が舞い込んで来るという
のもちょっと腑に落ちない展開でした。その割に本人は「お金がない」とか言ってるけど。
なんとなく、一つ一つの設定に釈然としないものがあり、据わりの悪さを感じました。


鯨さんにはもっとはじけた物語を書いて欲しいんですけどね。ま、このレーベルでトンデモ系の
作品を書く訳にはいかないのでしょうけど^^;どうもYA向けを意識して無理してまともに
しようとしてる感じがするんだよなぁ。
ちなみに、クリスティの『ABC殺人事件』とは全く関係ない内容だと思います(あっちは
読んでないけど、多分・・・)。