ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

竹内真/「シチュエーションパズルの攻防 珊瑚朗先生無頼控」/東京創元社刊

竹内真さんの「シチュエーションパズルの攻防 珊瑚朗先生無頼控」。

大学の文学部に入学を決めた僕は、叔母からの勧めで叔母がママを務める文壇バーでバイトを
することに。この店はミステリー作家の辻堂珊瑚朗先生が贔屓にしていて、店のホステスに
囲まれながら、年代もののバーボンを楽しむ。しかし、ひとたび不思議な謎に出会うと鮮やか
な推理でたちまち解決に導いてしまうのだ。夜毎文壇バーで繰り広げられる推理合戦を描いた
傑作連作ミステリ集。創元クライム・クラブ。


はい。というわけで、続けて創元クライム・クラブ(「ヴァン・ショーをあなたに」から
数えると三冊目ですが)です。私はもともと東京創元社の連作短編をとても信頼してまして、
ここから出る連作短編集ならそれが未読の作家だろうが無条件で手に取ることにしています。
今回の場合もしかり。竹内さんの名前は以前からもちろん知ってましたが、気になりつつも
未読の作家でした。そもそもこの方、ミステリを書かれる方だとは思ってませんでしたし。
書架でタイトルが気になる作品はいくつもあったのですが(「カレーライフ」、「じーさん
武勇伝」、「自転車少年記」(これはりあむさんお薦めだったからですが)などなど)。
それもその筈、この方本書が初のミステリーなのだそう。‘文壇バーで夜毎に繰り広げられる
推理合戦’なんて、シチュエーションだけでも面白そうではないですか。という訳で予備知識も
ないままに借りてみることに。

しかし、読んでみて一番感じたことは「ああ、この方ミステリー書きなれてないな」ということ。
読んでる時は著者初のミステリーだとは知らなかったので、ネット書評でその情報を得て「ああ、
だからか」と自分の印象が正しかったことがわかりました。
謎の解決の仕方がなんだかやたらに中途半端なのです。あらすじでは珊瑚朗先生が鮮やかな
推理を披露する、みたいな書き方をしているのですが、読んだ限りではそんな風な鮮やかな印象
は全く得られなかったです。推理を聞き手に委ねてみたり、結末をぼかしてみたり。なんだか消化
不良な印象の作品が多かった。中の一作はもう一人の文豪・藤沢がメインの推理をする話だし。
全体的に珊瑚朗先生自体のキャラも書き込みが足りないのであまり魅力を感じなかったのも痛い。
ホステスの胸とかさわっちゃうエロおやじだし。なんというか、典型的な権力者にありがちな
エロじじいって感じ。風貌は完全に北方謙三氏を思い浮かべてましたけどね・・・(笑)。葉巻に
バーボンで、渋さを演出してはいるのですが、私の好きなタイプの探偵ではなかったです。
安楽椅子探偵ものというのは、少ない手がかりからあっといわせる謎解きを繰り広げるのが
醍醐味だと思うのですが、その辺りの面白さがいまひとつ感じられなかった。ラストの「アーム
チェアの極意」は一番肩透かし。書き下ろしだからなのかもしれませんが、謎が提示されてすら
いない。珊瑚朗先生自体も登場しないし。『珊瑚朗先生が来るのを待っている』という余韻を
残したかったのはわかるのですが、それが成功しているとは言い難い。とってつけたような
唐突さがあって、なんともしまりのない短編集という印象で終わってしまったのが残念。
全体的に現代の話の筈なのに、妙に古くささを感じるところも気になりました(おそらくミーコ
ママや珊瑚朗先生のキャラクターのせいだと思いますが)。こういう作風が好きな人も
たくさんいるとは思うのですが、私好みではなかったです。


うーん、この作者さんはあんまりミステリには向いてないのでは・・・。青春小説の傑作
だという「自転車少年記」は読んでみたいと思っているのですけどね。