ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

麻耶雄嵩/「さよなら神様」/文藝春秋刊

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麻耶雄嵩さんの「さよなら神様」。

隣の小学校の先生が殺された。容疑者のひとりが担任の美旗先生と知った俺、桑町淳は、クラスメイトの
鈴木太郎に真犯人は誰かと尋ねてみた。殺人犯の名前を小学生に聞くなんてと思うかもしれないが、鈴木の
情報は絶対に正しい。鈴木は神様なのだから―(「少年探偵団と神様」)。衝撃的な展開と後味の悪さで
ミステリ界を震撼させた神様探偵が帰ってきた。他の追随を許さぬ超絶推理の頂点がここに(紹介文抜粋)。


あの講談社ミステリーランドの中でも屈指の問題作神様ゲームの続編。神様鈴木が再登場。
相変わらずの凄まじい破壊力。恐るべし鈴木。
いやー、でも、面白かった。ミステリ的に言えば、今年読んだ中でもベスト級の面白さだったと思う。
今回は連作短篇集で、ラストの一篇以外は冒頭の一行目から犯人が明らかにされる倒叙形式になって
います。突然の犯人の名指しに面食らう主人公。聞かなきゃいいのに、つい聞いてしまう犯人の名前。
その名前は、大抵、主人公を動揺させる人物を指しています。
ちなみに、主人公の桑町淳は、仲間と共に少年探偵団を結成する小学5年生。周囲で殺人事件が
起きる度、神様鈴木に事件の犯人の名前を聞いてはショックを受け、それが事実かどうか確認する為に
仲間と共に調査に乗り出します。当然、その結果は鈴木が正しい、ということで落ち着くのだけれど。

しかし、主人公の周りで殺人起きすぎですよねぇ^^;どんだけ物騒な町なんだよ^^;
前半の三篇もそれなりに面白かったのですが、やっぱり四作目以降三篇のカタストロフィが
素晴らしいですね。
実は四篇目はどこぞで既読ではあったのですが、こうして一作にまとまった中の一篇として読むと、
改めてその完成度の高さに唸らされました。特に主人公に関してのある騙しの手法には完全に
翻弄されまくってました。確かに、前の話でアレ?と思う記述がちらほらあったのですが、それも
完全に違う方向に勘違いさせられてました。ふむ。悔しいが、巧いのぅ(誰だよ^^;)。
そして、何より、ラストで明かされるある事実にあっと言わされました。今回に限って、鈴木の
推理が間違っていたのか?と腑に落ちない気持ちになりかけたところを、どーん、と真実を
つきつけられて愕然。若干ご都合主義に感じなくもなかったけど、ミステリとしては完璧な整合性
を持っているので文句のつけようがなかったです。何より、神様鈴木の言葉の正確性を改めて
思い知らされる結末になっているところが素晴らしかったですね。やっぱり鈴木は神なのか!
基本麻耶さんって苦手な作家さんだったのだけど、ここ最近の作品を読むにつけ、考えを改め
なければならないかなぁ、と思わされる今日このごろ・・・。作品が出るとつい読んじゃってるし(笑)。

神様鈴木の正体は相変わらず謎のまま。本当に神様なのか、はたまた悪魔なのか。鈴木って、推理は
おろか、登場場面もごく僅かで、ただただ殺人事件の犯人を告げるだけのキャラなのに、誰よりも
存在感のあるキャラですよね。ま、そりゃ、神様なんだから当たり前でしょうけど(苦笑)。

それにしても、小学生が主人公なのに、どの話もとことん結末に救いがない。ほんと、麻耶さんって
人が悪いなぁ(苦笑)。
五話目の『比土との対決』で主人公桑町の唯一の理解者が被害者になってしまったのが一番ショック
でした。また、その動機がね・・・小学生で起きる事件とは思えなかったです・・・。
ラストの『さよなら、神様』では、その前までに明らかにされなかったいくつかの事実がわかり、
さらに桑町と市部の後日譚が描かれています。二人の関係の変化は驚きつつも嬉しかったですが、
最後にまたもどーんと落とされ呆然。確かに、川合殺しの犯人がうやむやなままだったので、ちょっと
釈然としない気持ちにはなっていたのだけど。
相次ぐ仕掛けに翻弄されっぱなしの一冊でした。
でも、ラスト二行目、文末にいきなり♥(ハート)が出て来て面食らいました。桑町のキャラがガラガラと
崩壊していくような錯覚に陥りました・・・キャラ変わりすぎ^^;本来はこういう性格だったのかも
しれないですけどね。
腑に落ちない部分が全くない訳ではないのだけど、全体的には非常に計算された完成度の高い
連作集だと思いました。一作づつ読んでも面白いのだけど、全部併せて読むと、いろんなところに
伏線が散らばっていて、最後に繋がるように素晴らしく綿密に書かれているのがわかります。
まぁ、どの話も黒いですけどね^^;これは、間違いなく年末ランキング入りするでしょうね。
麻耶さんの実力をひしひしと感じる一作でした。ミステリ好きならば是非読んで欲しい逸品です。