ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桜庭一樹/「赤×ピンク」/角川文庫刊

桜庭一樹さんの「赤×ピンク」。

東京・六本木の廃校になった小学校で毎夜密かに開催される会員制のガールファイト。八角形の
檻の中で行われる非合法の少女たちのショーに、観客は興奮する。そこで闘う三人の少女、まゆ、
ミーコ、皐月。それぞれの思惑を抱えて、今日も闘いのショーが始まる――。


開架にひょっこり置いてあったので借りてみました。本書は、もともとファミ通文庫から出されて
いたものを角川で再出版したものです。確かに、設定やキャラ造詣など、いかにもラノベっぽい
雰囲気が漂っています。良くも悪くも、桜庭一樹にしか描けない世界の作品という感じ。
正直、感想が書きにくいです。夜毎行われる非合法のガールズファイトで働く三人の女の子が
主人公。一作ごとに視点が変わる連作形式です。時系列的には三作がほぼ同じ時間の出来事を
描いているのですが、微妙に時間がずれて行く所が巧い。今のように桜庭さんがブレイクする
ずっと前に書かれた作品ですが、この頃から表現や構成の上手さは健在ですね。

ただ、作品としてどうだったかと言われると、いまひとつピンと来なかったというのが正直な所。
それぞれの少女の言動がどうにも理解できないというか。これは私が彼女たちよりずっと年を
とりすぎてしまったせいなのか。三人それぞれの青春の痛みや迷いなんかは、桜庭さんらしい
表現力で生々しく描かれているのだけど、普通に真面目に学生生活を送ってしまった身では全然
共感できなかった。三人とも思考回路が変わりすぎてて、ちょっとおいてけぼりを食ったような
感じでした。少女たちが必死に生きようともがいているのはわかるんだけど・・・うーん。
私の読み取り不足なんだろうなぁ。いろんな書評みたけど、どれも絶賛してたしなぁ・・・。
そもそも八角形の檻の中で女の子同士が闘うという設定自体、萌え系のアニメみたいでちょっと
引いてしまったんですよね・・・。桜庭さんらしい若い女の持つ淫靡さみたいなものはすごく
出ていたと思うのだけど・・・。もともと格闘技とか好きじゃないしなぁ。
一番理解できなかったのは、まゆの章のラストで彼女が突然○○するって言ったことです。
え、ええーー!??とのけぞりました。な、なんでそういう思考回路になるの?と頭の中が
ハテナだらけになりました。まぁ、彼女としては今の状況から抜け出したいというのがずっと
あったのかもしれませんが。それにしても、そんなに簡単に一生を決めていいのか?・・・
劇的っちゃ劇的な幕切れでしたけどね・・・。

三人三様、個性的でキャラの書き分けはさすがだなぁと思いました。個人的にはラストの皐月の
章が一番わかりやすくて好きだったな。皐月はいわゆる○○○○○○(漢字六文字)ですよね。
彼女みたいな悩みを抱えた子は現代にたくさんいるでしょうね。彼女の家族が彼女の真実を
知って、受け入れてくれると良いけれど。帰る場所をやっと見つけた彼女のラスト1ページの
台詞が嬉しかったです。多分、言われた方もきっと。

ミーコはミーコで個性的で面白い子だったけど、いきなり幼児返りには武史同様、目が点に
なりました。SMクラブとガールズファイトを掛け持ちって、すごい人生だよ、ほんとに・・・。
セクシーな大人の部分と、精神年齢の低い子供っぽい部分とが同居している不思議な女の子。
気まぐれで気ままで、なんだか猫みたいな子だなぁと思いました。


ああ、桜庭さんの世界だなぁと思いました。設定はいかにもファミ通文庫なんだけど、中身は
ラノベレベルを超える作品だと思うので、角川から再販できてよかったのではないかな。まぁ、
個人的にはすごく好きと云える作品ではなかったけど、桜庭さんらしい作品なのは確かだと
思います。好きな人はすごく好きな作品になるんじゃないかな、コレ。