ミステリ読書録

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桜庭一樹/「製鉄天使」/東京創元社刊

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桜庭一樹さんの「製鉄天使」。

1970年代の終わり。東海道を西へ西へ、山を分け入った辺境の地、鳥取県赤珠村で老舗の
製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆。美しい容姿をしながら、問題の多い子供として、
周囲からは「赤緑豆製鉄のバカお嬢」と揶揄され、蔑まれてきた。そんな小豆は、幼い頃から
鉄を自由自在に操るという特殊な能力を持っていた。赤いバイクに跨り暴走を続ける小豆は、
中学に上がるとレディース界を席巻し始め、やがてレディース『製鉄天使』の初代総長として
中国地方制圧して行くことになる――レディース総長として十代の短い時間を駆け抜けた、
少女小豆の仰天一代記。


楽しみにしていた『赤朽葉家』のスピンアウト作品。ついに刊行です。てっきり毛毬のレディース
時代のお話なのかと思っていたら、そうではなく、毛毬が書いたマンガ原作を小説化した
作品でした。とはいえ、主人公の赤緑豆小豆は老舗製鉄会社の娘ですし、ポニーテールの美少女
ですし、明らかに毛毬自身が投影されています。ただ、あくまでもマンガの原作ということを
念頭に置いているせいか、かなりいろんな部分が荒唐無稽な設定になっていて、なんでもアリ
だなぁって感じの破天荒な作品になっています。いかにも桜庭さんらしい言葉や表現なんかが
満載で、その辺りの言葉のセンスなんかはさすがに突き抜けているなぁと思うのですが、正直、
この作品自体は私には合わなかったです。一冊通して赤緑豆小豆という不良少女がレディース族
を率いて他のレディース族たちを倒して中国地方を席巻する、というそれだけのお話で構成されて
いて、不良少女たちの言動に全く共感できるものがなかったから。結局、私の人生には小豆の
ような不良的な羽目をはずした経験がないので、どうしても彼女たちの汚い言葉遣いなんかには
読んでいて嫌悪しか覚えないのです。「メスブタ」とか「ドブス」とか、普通に使ってるのがどうも
不快でムカムカしました。小豆は言葉遣いは汚いけど、純粋な性格の女の子ではあるのですが、
彼女の突飛すぎる行動にはどうしてもついていけないものがありました。尾崎豊の歌なんかに
共感できる人は気持ちがわかるのかもしれないですけどね・・・(いや、尾崎の歌はいいと
思うけど、盗んだバイクで走しだしたりする経験がないもんで^^;)。

前半はそんな訳で言葉や設定に入り込めず、少々苦戦。不良少女たちの思考回路は凡人の
私にはちょっと理解不能でした。ただ、途中からはスピード感も増して一気に読めました。
スミレのキャラは最初からなんとなく鼻につく感じで好きになれずにいたのですが、突然の
さよなら宣言には唖然。そして、高校でのキャラの変化に戸惑っていたら・・・やっぱり、一筋縄
ではいかない人物でした。うーん。でも、最高学府行って外交官目指す為に不良仲間たちを
振り切った割に、やっていいことと悪いことの境界がわからなかったというのは、解せません。
ちっとも頭よくないじゃん。結局、彼女も子供だったということなんでしょうけど。でも、
彼女の末路には虚しい気持ちになりました。小豆と一緒にバカやっていれば全く違った人生に
なったでしょうにね・・・。

途中に挟まれる断片が一体どう繋がって行くのかと思ってましたが、ラストを読んで腑に落ち
ました。時系列にはちょっと驚きましたね。‘『製鉄天使』が一夜にして消えた’理由がまさか
こう来るとは。まぁ、拍子抜けな感がなきにしもあらずですが、一応ちゃんと断片の部分もすっきり
したので良かったです。

ただ、フィクションに拘るあまりか、無駄にファンタジー要素が入るところにはちょっと引いて
しまいました。イチが作った鉄の羽で飛び上がるシーンとか、必要だったのかなぁ。ヤンキー
小説に、ファンタジー要素なんていらないと思うんですけど。鉄に愛されるって設定は、
まぁ、いいとしても。奇抜な発想が桜庭さんらしいとは思うけど、どうも唐突な感じがして、
巧くはまってるとは思えなかったです。

あと、大和タケルのキャラの扱いの中途半端さに不満が残りました。一体、何の為に出てきたんだ、
ヤツは。付き合うことになってから、二人のシーンが驚くほど少なく、気がついたら自然消滅
状態。劇的に出会った割に、あっけない幕切れに拍子抜けでした。タケルなんかよりも、よっぽど
兄のイチの方が印象に残るキャラでしたね。十代の恋なんてそんなものなのかもしれないですが。
でも、マンガ原作なら、その『恋』の部分はもっと掘り下げるべきだと思うんですけど。

本編の『赤朽葉家~』の純粋なスピンオフだと思ってた人はかなり驚く内容になっているのでは
ないでしょうか。ああいう世界観を期待していると大幅に裏切られるかもしれません。あくまで、
あちらとこちらは別のものと切り離して読むべき作品だと思います。全く違ったフィクションの
世界だと割り切って読むと、楽しめるのかも。
ぱらりらぱらりら~と小豆が赤いバイクに乗って駆け抜ける姿が頭の中をぐるぐるしてます。
作者が勢いに乗って書いたのはわかりますが、私にはあまり受け入れられる世界観ではありません
でした。多分、はまる人はすごく面白く読める作品だと思いますが。個人的には、残念ながら、
製鉄天使たちには最後まで共感できないままでした。楽しみにしていただけに、ちょっと残念な
作品でありました。