ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柄刀一/「ペガサスと一角獣薬局」/光文社刊

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柄刀一さんの「ペガサスと一角獣薬局」。

写真家の南美希風と友人の的場利夫はユニコーンがいるという噂の英国の地方を訪れた。美希風は
幸運にも森の中の湖畔で噂のユニコーンの姿を写真に収めることに成功する。しかし、その湖の
水際で男の死体が発見された。遺体は背中を円錐状のもので刺されており、胸には馬の蹄の跡の
ようなアザが残されていた。現場を見た村人の一人は、これがユニコーンの仕業なのではないかと
言うのだが――(「ペガサスと一角獣」)。フリーカメラマン南美希風が不可解な難事件の謎に挑む
短編集。


うんうん。これは良かったです!柄刀さんは何作か読んでいるけど、ちょっと文章が読みにくい
印象があって最近は手を出していなかったのですが、これは結構あちこちで評判が良いよう
なので久しぶりに食指が動く柄刀作品でした。
舞台は基本的には現代なのに、舞台が外国の村だったりするので中世のファンタジー小説
読んでいるような気分になるから不思議。謎の提示も龍やユニコーンやペガサスといった
伝説上の生物を取り上げていたりして、幻想怪奇的なゴシック風味がいい味を出してます。
実は意外なことに文章的には全く読みにくさがなかったのですが、一話目を読み始めてしばらく
は読みやすい文章な筈なのになぜかなかなか頭に入って来ずちょっと苦戦。主人公は日本人だけど、
舞台が外国で周りの登場人物も外人だから例のごとくカタカナ名に戸惑ったというのもあったの
ですが。でも二作目以降はそれにも慣れてさくさくと読み進められました。
主人公の美希風氏のキャラはなかなかいいですね。宝塚みたいな名前に最初は引きましたが^^;
心臓移植手術をしたのに、こんなハードに世界を飛び回ってて大丈夫なのかなと弱冠心配になり
ました^^;
幻想的で不可解な謎を丁寧なロジックで突き詰めて解き明かして行く過程が良かった。真相は
どれも一歩間違うと(間違えなくても?)バカミスか?てなくらいやっちゃってくれてますが、
きちんと論理的に説明がつけられているので感心しました。なんだかミステリらしいミステリを
読ませてもらったという感じ。こういうアクロバティックなトリックの本格ものは大好きです。
なんとなく、ちょっと島田さんぽい印象を受けました(まだ島田初心者なのでなんとなくの印象
ですが^^;)。
単なるトリックありきの作品というだけではなく、きちんと一話ごとに物語としての感動や余韻を
残してくれているところが秀逸です。一作ごとに非常に完成度が高く、大変読み応えのある
作品集でした。


以下、各作品の短評。


『龍の淵』
ラスト一ページで明かされるトリックの真相には唖然。多分よく出来ていると思うのですが、
頭の中で殺害状況がいまいち映像化されず、ちょっとわかりにくかった。でも、ドラゴンの足跡
の謎は、ラスト一行で腑に落ちました。すごい殺害方法だ^^;


『光る棺の中の白骨』
ドアが溶接され、完全に密室化した石室の中で発見された白骨死体。密室ものとしては非常に良く
出来ていると思うのですが、真相は完全にバカミスでは・・・。確かにこれもラスト一行を読むと
出来そうに思えてしまうのですが、実際は絶対無理じゃないかな・・・(スケールが違うし)。


『ペガサスと一角獣薬局』
舞台設定は最高ですね。ユニコーンやペガサスといった伝説の生き物や、周りから敬遠され忌み
嫌われている老婆が運営する不思議な薬を扱う一角獣薬局といったファンタジー小説のような
設定が非常に好みでした。そうした幻想的な謎が論理で解明されて行く過程は非常に面白かった。
一角獣薬局の老婆の孫のクララの健気さにもついつい応援してあげたくなりました。ええ子や~
(何故か関西弁)。ラストの締め方も良かったです。しかし、美希風氏がカメラマンの割に
使ってるのが三万円台のコンパクトデジカメでずっこけました。一眼レフとか使おうよ・・・。


『チェスター街の日』
ミステリとしては使い古された手法ですが、まんまと騙されました。伏線がきっちり張られていて
感心。始めは一体いつ美希風さんが出て来るのかなーとじりじりしたので、出て来た時は嬉しさ
倍増でした(笑)。ラストが素敵ですね。爽やかな気持ちになりました。


『読者だけに判るボーンレイク事件』
最初の『龍の淵』の前日譚(?)的作品。正直言って、ちょっと蛇足かなぁと思いました。
『龍の淵』の補足的な作品と思えばふむふむと思えるところもあったのですが。ラスト一行
なんかは完全に一作目の伏線になってますしね。短編集としては『チェスター街~』で締めて
欲しかった気はするのですが。





主人公の美希風氏が活躍する作品は他にもいくつかあるようですね。あの超大作『密室キングダム』
がこのシリーズだとは。昨年末、図書館で見かけてしばし借りるかどうか心の葛藤があったの
ですが、さすがにあのボリュームは読みきれそうにないとそっと棚に返してしまいました^^;
そのうちチャレンジしてみたいです。
魔法系のファンタジー小説のような装丁がまたえらくかっこいい。これは手元に置いておきたい
装丁だなぁ。密室キングダムも装丁かっこよかったもんな~。並んで置いたらそれこそハリポタ
とかに出て来る図書室の書棚みたいな雰囲気になりそうだ。タイトルもかっこいいしね。
お気に入りの一冊になりました。これはミステリ好きなら間違いなく楽しめる作品ではないかな。