ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鮎川哲也/「消えた奇術師」/光文社文庫刊

鮎川哲也さんの「消えた奇術師」。

大学の解剖室の中で、法医学教室の女子医学生がバラバラ死体で発見された。解剖室の扉の閂には、
ダイヤルロック式の錠がかかっており、窓は鎧戸が閉まっていた。事件の知らせを受けた田所警部は
すぐに現場に向かい、捜査を開始する。生前被害者と交際していた浦上という医学生が有力容疑者と
目されたが、彼には確固たるアリバイがあった。捜査に行き詰まりを感じた田所は、天才的な推理
頭脳を持つ貿易商・星影龍三の元を訪れる――(「赤い密室」)。赤、白、青、三つの「密室」
トリックの傑作を含めた6編を収録。


鮎哲賞作品を読んだので本家が読みたくなった・・・という訳でもないのですが、ちょうど
借りて来ていたので続けて読むことにしました。やはり本家は本家ですねぇ。鮎川さんは大好き
な作家ですが、実はそんなに作品数をたくさん読んでません。実家の本棚にも未読作品がいっぱい
眠っているのですが、なかなか読む機会に恵まれず積読のままです。新しい本が次々出てしまう
から、なかなか古典を読む機会がないのですよね。でも、たまに無性に古典のがちがちの本格作品
が読みたくなる時があるので、そういう時に未読を減らして行きたいなぁと思っているのですが。

久々に読んだ鮎川作品でしたが、やはり面白かった。ただ、全部が出来が良いという訳では
なかったのですが。出版当時はこれで良かったのかもしれないけれど、今の自分が読むとちょこ
ちょこ引っかかる部分が目立つ作品もありました。そうはいっても、やっぱり本格ミステリの基本
を教えてくれるような古典的なトリックは充分魅力的で、ミステリの原点に戻ったような気持ちに
なれて大いに楽しめました。やっぱりミステリの基本は本格だよなーと私は思っているので。
しかし、久々に読んで星影さんの性格の悪さには面くらいました。こんなに嫌な人だったっけ?
と首を傾げることがしばしば。どうも私の中では高木彬光氏の神津恭介氏と被っている印象が
あったのだけど、ビジュアル的にはそんなに被ってない。髪をぴっちり撫で付けてるし、髭あるし。
でも混血っぽい整った顔、という表記があるので、その印象が強かったのかも。田所警部に対する
嫌味な態度や、気障ったらしい傲岸不遜なふるまいに正直何度もムカっときました。星影シリーズ
好きだった筈なのに、ありゃりゃって感じでした^^;まぁ、ミステリとしては面白かったから
いいんですけどね。



以下各作品の短評。


『赤い密室』
これは一番面白かった。謎解きの『逆転の発想』にはただただ感心。非常に良く出来てますね。
伏線の張り方はさすがです。実は単行本は実家に二冊もあるのに(姉と私、別々に買っていた^^;)、
読んでなかったんですよ。もっと早く読んでおけば良かったなぁ。


『白い密室』
これはちょっと拍子抜けの真相でした。似たような作品を他にもたくさん読んでるから余計そう
思ってしまったのかもしれませんが。星影さんの推理のキレがいまひとつ感じられませんでした。


『青い密室』
これは一番つまんなかったな。犯人は明らかに怪しいと思った人物そのまんまだったし。
ページ数も少ないから、色密室シリーズとしてはちょっと物足りなかった。


『黄色い悪魔』
色繋がりで収録されたのでしょうね。これはなかなか良かった。真相には「えー」って言いたく
なったのだけど、いくつか腑に落ちないと思っていた部分も星影さんの推理過程で論理的に
説明されているので納得できました。お風呂場にレモンやアイスクリーム?と疑問に思った
のですが、それもちゃんと意味があったし。動機に関しても、表向きの動機だけなら薄弱に
感じたと思いますが、裏の動機を知りすとんと腑に落ちました。タイトルもいいですね。


『消えた奇術師』
これは犯人やトリックはだいたい予想がついてしまい、ほぼその通りだったのでミステリ的な
驚きはあんまり得られなかったですね。消えた奇術師という題材は非常に好みの題材で期待
したのですが・・・。奇術師ものでは泡坂さんの方に分があるかも^^;


『妖塔記』
これだけちょっと雰囲気が違う異色作。でも、これは良かった。ミステリとしては割と王道な
展開ではありますが、まんまと騙されました。実は出て来るダイヤの色が『黄色』という所に
引っかかりを感じていたのですが、そこにポイントがあったんですね。真相に近づいていたのに、
気付けなかった~^^;星影氏の登場の仕方も他とちょっと違って印象的。いつもは田所警部に
請われて謎解きをするけれど、この作品では自らわざわざ当事者の元に行ってまで謎解きを
している。それほど嫌味な人格も出ていないので、もしやあの傲岸不遜な態度は田所警部の前
だけだったり?とちょっと警部が気の毒になりました(苦笑)。余韻の残る情緒的なラストも
良かったです。




やっぱり私は本格が好きだなぁ。次は開架に並んでいたもう一冊の星影シリーズを借りるのだ。
調べてみたらこの光文社文庫鮎川哲也コレクションシリーズ、カバーの色違いで結構たくさん
出ているみたいですね。鬼貫バージョンもあるみたいだし。なんとなく鬼貫ものは避けて来た
ところがあるのだけど、これを機にそっちにも手を出そうかな。