ミステリ読書録

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今野敏/「疑心 隠蔽捜査3」/新潮社刊

今野敏さんの「疑心 隠蔽捜査3」。

息子の不祥事で大森署の署長に左遷された竜崎は、アメリカ大統領来日が近づき、外交日程を気に
していた。米国の首相来日となれば、首都圏の警備に大量の警察官が動員されることになるからだ。
しかし、竜崎にとって思いもかけない辞令が下された。竜崎をアメリカ大統領訪日の際の方面警備
本部の本部長に任命するというのだ。そして、本部長になった竜崎の前に大統領機が到着する羽田
空港のテロ情報がもたらされる。しかも、テロ犯の中には日本人が混じっているらしい。緊迫した
状況の中、竜崎は一人の人物との出会いから大きく心を乱されて行く――シリーズ第三弾。


楽しみにしていた『隠蔽捜査』シリーズ第三弾。東大出キャリアのエリート警察官・竜崎の変人
っぷりが楽しいこのシリーズですが、今回はちょっと毛色が違ってました。前評判を聞いていた
ので、なんとなく嫌な予感はしていたのですが・・・むむむ・・・今回は、予感通り前二作ほど
楽しめなかったです・・・。いや、羽田空港を狙うテロ犯を追い詰めて行くメインのストーリー
は相変わらず面白かったんです。でも、それとは別の、もう一つの軸となっている竜崎の『恋』
の部分がどうしても私には受け入れられなかった。多分今野さんとしては竜崎をより人間くさく
成長(大の大人に成長って言葉も変なんだけど^^;)させたかったのはわかるのですが、別に
そこに『恋』の要素を持って来なくても良かったんじゃないのかなぁ・・・。せっかく確立されて
きた竜崎のキャラがだいなしになってしまった気がする。しかも、相手の畠山のキャラがそこまで
魅力があるように感じられないし。恋にうつつを抜かして仕事をおろそかにしたり、自分だけでは
気持ちをコントロールできずに恨みがある筈の幼馴染に相談しちゃったり、全く‘らしくない’
言動ばかりを繰り返すこんな竜崎はあんまり見たくなかったです。確かにこういう感情を経験
することで、より人間らしくはなったのでしょうけれど・・・。竜崎の感情に共感できなかった
ので、どうも作品自体に乗り切れないまま読み進めて行った感じでした。ただ、竜崎を取り巻く
戸高や伊丹などとのやりとりはいつもの竜崎らしさが出ていて良かったです。個人的には第二方面
本部長の長谷川が結構好きでした。ちょこちょこ竜崎の体調を心配したり、彼に尊敬の念を抱いて
いるようなそぶりを見せたり。竜崎はいちいち彼の好意に裏があると疑ってかかっていましたが、
私は純粋に竜崎に好意を寄せているとしか思えませんでした。警察組織内のアウトロー人間としては、
周りの人間がみんな自分を煙たがっていると思ってしまうのは仕方ないところなのでしょうけど。
相変わらず自分を過小評価する竜崎は好きですけれどね。いい仕事をした部下を素直に認めて
評価するところも好きですね。

それにしても、あんなに恋に動揺しまくっていたのに、○の本を読んだだけで気持ちが落ち着いて
しまうっていうのはちょっとご都合主義すぎないかい?^^;まぁ、なんとも竜崎らしいっちゃ
竜崎らしいのかもしれませんが・・・なんとも、中途半端な決着のつけ方で、拍子抜けな感じが
しました。不倫に発展しなかったのはほっとしましたけどね・・・。

特筆すべきは、ラストの冴子さんの台詞のかっこいいこと!今回のことで竜崎の株は完全に下がった
けど、冴子さんの株は今まで以上に上がったのではないでしょうか。さすがの慧眼というか・・・。
彼女の鋭さには舌を巻きました。こんなにすごい奥さんがいるのに、竜崎、この唐変木め!
畠山なんかよりもずっと素敵な人を妻にしている自覚を持って欲しいものだわ。ぷん。
まぁ、この経験をしたことで、娘の恋愛にもそれなりに的確なアドバイスができるようになった
訳だし、マイナス面ばっかりでもなかったかもしれませんけど、ね。
でも、やっぱり竜崎に恋は似合わない、というのが正直な感想です。