ミステリ読書録

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京極夏彦/「厭な小説」/祥伝社刊

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京極夏彦さんの「厭な小説」。

「厭だ」――同僚の深谷の上司に対する愚痴を聞いて、酷く厭な気分になって帰宅した私が玄関の
ドアを開けると、子供が立っていた。それは不気味な子供だった。山羊のような瞳。左右に離れた眼。
ほとんど隆起のない、穴だけのような鼻。半開きのだらしない口許――この子供は何なのだ。妻との
関係がぎくしゃくしていた私の前に現れたこの不気味な子供は――こんな子供は厭だ、厭だ、厭だ
――(「厭な子供」)。あらゆる不快と嫌悪を詰め込んだ日本一の『不快』エンターテイメント小説。


京極さんの新刊。タイトル通りの、『厭な小説』です。もー、これでもかってくらいの、
生理的嫌悪感のオンパレード。よくもまぁ、ここまで人間の嫌悪感を誘うエピソードが思いつく
ものだ、とある意味呆れる感情を通り越して感心さえしてしまうくらい、もう、この上もなく、
厭な小説です。多分、こういうの読んで読者が嫌~な顔をしているのを想像するのが愉しいんだ
ろうなぁ、京極さんは。ほんとに、人が悪いっていうか、なんというか。一言メッセージにも
書きましたけど、読んでる途中で本当に具合が悪くなったんですよ。一日吐き気が止まらなくて。
単なる体調不良だったんだろうとは思うけど、絶対この小説も一役買ってるよ・・・。だって、
ほんとに不快で気持ち悪かったんだもん・・・。
でもね、イヤなのに、読んじゃうんですよ。ついつい、読み進んじゃうんです。これはもう、
京極さんの文章力の賜物としか云い様がないっていうか。だから、その先にどんなイヤなことが
あるのよ!?って気になって気になって仕方がないから、結局最後まで一気に読んじゃうんですよ。
どの話も。結局すべての話が『厭だ』で始まり、『厭だ』で終わる。つまり、そういう話なんだけど。
気がついたら、京極さんの罠にはまっているってやつなんだろうな、これ。それぞれにオチがぼか
されて終わっていて「どうなったんだろう・・・」って思う話もあるんだけど、すべての主人公の
結末がラスト一篇で明かされます。それはもう、どうしようもなく暗澹たる結末で。『厭』に
取り付かれてしまった人間の末路はすべてが暗黒。私も『厭』に取り付かれたらどうしよう。
ああ、厭だ。厭だ。厭だーーー。


あんまり思い出したくないけど、各作品の短評。

『厭な子供』
もう、ビジュアルを想像しただけで厭です(あらすじ参照)。玄関のドア開けてこいつがいたら、
私は逃げます。途中、良い方向に向かわせるのかと思いきや、京極さんはそんなに甘くなかった。
こんなの子供じゃない。こんな子供厭だーー。

『厭な老人』
これは生理的嫌悪感で云えばダントツ。老人の行動を読んでいるだけで何度気が遠くなりかけた
ことか。また笑いながらってとこが。ほんとに吐きそうになりました。でも、結構衝撃的な結末
が用意されていて、小説としては巧いんですよ、これが・・・。でも、二度と読みたくない。

『厭な扉』
これの感想を抜かしてました^^;『厭な扉』というよりも、『厭なホテル』にした方がいいような。
オチは相当ブラック。モダンホラーって感じでしょうか。

『厭な先祖』
主人公に仏壇を押し付ける後輩の志村のキャラからして厭で厭で仕方ない。そして、仏壇の中に
あるモノの映像を頭に思い浮かべてまた吐きそうになりました。こんなの罰当たりだ。
先祖は大事にするものなのに・・・こんなの大事にしたくない。

『厭な彼女』
これも読んでる不快感は1、2位を争う作品。付き合っている人間にこんな行動されたら、
ほんとに殺意が芽生えるよ・・・。どんなに言葉を尽くしても、意志の疎通が出来ない恋人。
食卓にグリーンピースだけのハヤシライスが出てきたら・・・絶対厭だ。『流星の絆』では
ハヤシライスが食べたくなったけど、この作品を読むとハヤシライスが怖くなると思います。

『厭な家』
自分の厭な記憶だけがリピートする家。帰りたくない・・・。足の小指をたんすの角にぶつけた時
の痛みが繰り返されるなんて・・・考えただけで厭です。物質がないのに、身体だけは傷がつく
ってのも厭だ。家からの復讐?こんな家では安らげない。

『厭な小説』
これ以前の全部の作品に脇役として出て来る深谷が主人公。何故、全作品に同じキャラを
登場させたのかが、この作品を読んでわかりました。ちゃんと繋がっている。小説としてはやはり、
巧い。でも、こんな小説厭だーーーー。



どの作品も生理的嫌悪感いっぱいです。ほとんどの作品で『臭い』に関する不快な描写が出て
来るので、余計に想像力を掻き立てられて不快感が増しました。科学が進歩して臭いまで
体現できる小説が生み出される前で良かったよ、ホントに・・・。

装丁がまた厭~な感じなんですよ。変に薄汚れたような黄土色で。ページの紙質もわら半紙
みたいで、分厚いのに妙に本が軽いのもなんだか落ち着かない。タイトル字は京極さんご自身が
書かれたのだろうなぁ。これも、味のある良い字なんだけど、変に歪んでいて、字の濃さも
一定してなくて、ちょっと厭な感じ。さすが、すべてが計算されていて、すごいなぁ。
こんな厭な小説を書いてしまう京極さんが大好きですけどね。でもぉ・・・。
そういえば、あらすじ紹介に『日本一のドン引きエンターテイメント』って紹介されてました。
確かに、ドン引き・・・。

作品としては、面白いです。巧いです。でも、不快です。厭です。
お願いだから、もっと違うまともな作品で能力を発揮してくれ・・・。