ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「動機、そして沈黙」/中央公論新社刊

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西澤保彦さんの「動機、そして沈黙」。

クロイシアキラを殺した犯人――それはぼくの父だ。本当ならクロイシはぼくの父親を殺す筈
だった。でも、クロイシは失敗し、返り討ちにあって殺されてしまった。それを知っているのは
ぼくだけだ。だって、クロイシに父を殺すように頼んだのはぼくなのだから――(「ぼくが彼女
にしたこと」)。特別書きおろし中編篇の表題作を含め、ノワールテイスト炸裂の六篇を収録。


西澤さんの新刊です。この間のSF短編集よりはずっと楽しめました。どの作品も西澤さんらしい
黒さが盛り込まれていて、いやーな気分になります(笑)。一応ミステリよりですが、あとがき
で触れられているように、あまりロジックに拘らずにそれ以外の要素に重点を置かれて書かれた
作品が多いです。個人的にはロジックに拘った『パズラー』みたいな作品集の方が好きなのですが、
これはこれで西澤カラーという感じでこういうのもアリかな、と思いました。相変わらず
フェチものやらレズビアンやらの要素が出て来るのはもうご愛敬って思うしかないのかな^^;
正直、ほとんどの作品に必要性のないエロが挟まれている所には辟易しました^^;それに
しても、ほんとにレズものがお好きですよね、西澤さんて・・・。きっちりロジックで
すっきり解決させる作品は少なく、幻惑的な結末で読者を煙に巻くタイプの作品が多かったので、
あまりピンと来ない作品もありました。余韻が残るという意味では成功しているのかもしれませんが、
なんだかすっきりしなくて据わりの悪さを感じたりすることも。


以下、各作品の感想。

『ぼくが彼女にしたこと』
主人公の『ぼく』には全く共感できなかったですね。彼女への複雑な想いもさっぱり理解できな
かったし。まだ、普通に恋愛感情とか性欲から追いかけていたという方が理解出来ていたと思う
のですが。『ぼく』が推理したことが事実だとしたら、クロイシの死の理由は全く納得できな
かったです。一番悪いのは順子さんなんだろうなぁ・・・怖っ。

『迷い込んだ死神』
これは一番わかりやすくオチで驚かされたという意味で好きな作品。真相はめちゃくちゃ黒いです。
そういうところも含めて良かった。後味最悪ですけど。

『未開封
西澤流フェティシズム全開の作品。未開封の○○○○○○と殺人の真相にはいまいち納得が
いかなかったような。ラストもちょっとピンとこなかった。結局、紫笛が夏でも厚手のタイツ
をはいている理由もよくわからなかったんですが・・・読みとり不足?^^;;

『死に損』
これも結局殺人の動機はよくわからないまま物語が閉じるので、得体の知れない気持ち悪さの
ある作品でした。被害者が言った一言で、なぜ犯人にスイッチが入ってしまったのかがさっぱり
わかりませんでした。作者はそういうのを狙ってるんでしょうけどねぇ。こういう作品に対して
私はあまりいい読者にはなれないみたいです。

『九のつく歳』
レズが好きなのはわかるけど、この年齢同士のこういう関係ははっきり云って読みたくないです。
語り口が若いままだから、主人公の年齢設定を忘れそうになりましたが。それに、この年齢の
人間にストーカーがいるっていうのもねぇ。でも、主人公の出したゴミを拾い集めたストーカー
の部屋から意外な事実がわかって行く過程は面白かったです。ただ、この話、この間読んだ
『マリオネット・エンジン』に出て来る『青い奈落』と設定が似ているなぁと思ったのですが。
ラストも似たようなオチだし。

『動機、そして沈黙』
なぜか『死に損』と同じ海松(みる)市が舞台で、弱冠登場人物も重複しているところが
あります。でも、別にリンクさせる必要性はまったくなかったように思うのですが・・・^^;
ミステリとしてもホラーとしてもよく出来ています。これも結末はかなり黒い。切り裂き
ジャックの標的になった被害者たちのミッシングリンクには、なるほど!と思いました。
タイトルの『沈黙』が最後に効いてくるところがいいですね。
この作品だけエロがない代わりに、最近の西澤作品のテーマの一つである『老い』が出て
きます。そのうちタックシリーズにもこの問題が出て来るのかなぁ・・・(ちょっと、嫌かも)。



西澤さんらしさ満載の作品集でした。装丁もかっこよくて好きです。
西澤作品初心者だと一部の描写に引いてしまう可能性大ですが(^^;)、ファンならば
楽しめるのではないかな。あとがきに著者自らの作品解説があるのも嬉しい。
あ、あとがきから読むのは厳禁だそうですので、ご注意を。
ちなみに、今回も珍名さん大集合でした・・・読めないっつーの・・・。