おやつにまつわる掌編エッセイを集めたアンソロジー。全部で43篇もあるので、
一作づつは短いですが、かなり読み応えありました。寄稿作家は錚々たる方
ばかり。随分前に発表されたものがほとんどなので、作者は大部分が鬼籍に入られて
います。お名前は存じ上げていたけれど、文章読むのは初めて、という大作家
さんもたくさん。それぞれに思い出のおやつのお話が出て来るのだけれど、
子供の頃の思い出のおやつのお話が多いので、その分年代も戦前だったりして、
今のキラキラしたインスタ映えするようなスイーツとは違う、時代を感じさせる
懐かしいおやつのお話が多かったです。セピアの郷愁を誘うというか。
自分の子供の頃にもこういうおやつあった、あった!と懐かしく思い返したり
して、なかなかに感慨深いものがありましたね。シュークリームやドーナツが
出て来ることが多かったかな。
印象深かったのは、益田ミリさんの『プリン・ア・ラ・モードのかわいい
ジオラマ感』森茉莉さんの『シュウ・ア・ラ・クレェム』久住昌之氏の
『おはぎと兵隊』五木寛之氏の『メロン・パン筆福事件』辺りかな。
益田さんのはプリン・ア・ラ・モードをジオラマに見立てたセンスに脱帽。
確かに、小さな箱庭みたいだ!って楽しくなりました。森茉莉さんは、もう、
美麗な文章にただただやられてしまった。『シュー・ア・ラ・クレーム』ではなく、
『シュウ・ア・ラ・クレェム』って表現だけで、本場フランスのお菓子らしく
思えるから不思議。
久住さんのお話は、こんな掌編で読むのは勿体ないと思えるくらい、心に
残る、読み応えのある作品だった。戦地へ行く兄がひたすらおはぎを食している
姿がなんとも切なくて。その背中を見送る著者の母親の心中を思うともう。
五木さんのは、ただただ楽しかった。うっかり新聞でメロンパンの話を書いたら、
あちこちからこぞってメロンパンが送られてくるっていう。語り口が軽妙で、
エッセイだからなのかもしれないですが、五木寛之さんって、こんな楽しい方
なんだなーってなんだか新鮮だった。
一番食べてみたくなったのは、開高健さんの作品の中に出て来た、ベルギーにある
『ラ・ロレーヌ』というレストランの<ダーム・ブランシュ(白い貴婦人)>。
アイスクリームに熱いチョコレートをかけたものらしく、とんでもなく旨いとか。
冷たいアイスに温かいチョコレート・・・もう、絶対旨いじゃん!!それ
食べる為だけにベルギー行きたくなっちゃったよ。
自分の思い出のお菓子って何だろうなぁと考えてみると、いっぱいありすぎて
悩んじゃうなぁ。子供の頃は両親が共働きだったから、やたらと家にいろんな
お菓子がおいてあったから。チョコレート菓子やスナック菓子、その他もろもろ。
お菓子食べて大人しくしててねって意味だったと思うんだけどね。もちろん、
おこづかい持って友達と駄菓子屋も行きましたしね。でも、一番記憶に残ってる
美味しいお菓子の味は、両親がやってたお店のすぐ近くにスナック兼喫茶店
みたいなお店があって、そこのママが作るレアチーズケーキ。たまに親がおみやげ
に買って来てくれるのがすごく嬉しかった。ブルーベリーのソースがかかってて、
ほんとに美味しかったんですよねぇ。ああ、もう一度食べたいなぁ。もう
お店もないだろうし、ママも鬼籍に入ってるかもだけど・・・。
みんなそれぞれに思い出のおかしがあって、思い出の味は忘れられないもの
なんだなぁって思わされました。お菓子をつまみながら、まったり読むのが
良さそうな作品でした。
同じアンソロジーのシリーズで、お弁当バージョンもあるらしい。そちらも
機会があったら読んでみたいな。