ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

岸田るり子/「Fの悲劇」/徳間書店刊

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岸田るり子さんの「Fの悲劇」。

目に映った対象を写真のように細部まで記憶する能力を持つさくらは、幼い頃からその能力ゆえに
不可思議な絵を描いては両親を驚かせていた。その絵が原因で、両親が不仲になり、挙句父を
事故で失った。父の事故の前日、さくらは父の絵を描き、その絵を気に入った父はその絵に合う
額縁を買いに行った帰りに奇禍に遭ったのだ。そんなことがあってから、さくらは母の前では
絵を描くことをやめた。しかし、内緒でこっそりと描き溜めては押し入れの天井板をはずして
隠しておいた。月日は過ぎ、高校を卒業したさくらは、天橋立で旅館を営む祖母のところで
働くことになった。要領の悪いさくらは失敗を繰り返し、祖母を呆れさせた。しかし、そんな
祖母がある日脳卒中で倒れ入院することになり、旅館で役に経たないさくらは祖母の世話を
するため病院に通うことに。祖母が眠る横で絵を描いて過ごしていたさくらだったが、ある日
さくらが書いた瓦屋根の家の絵をみた祖母から叔母を話を聞いて愕然とする。さくらは自分に
叔母がいることすら知らされずにいた。しかも、叔母は元売れっ子女優で、20年前に何者かに
よって刺殺されたというのだ。その死の様子は、自分が幼い頃に描いた絵の情景そっくりだった。
さくらは、叔母が当時下宿していたペンションをつきとめ、下宿しながら彼女の死の真相を探り
始める――書下ろし長編。



※軽く黒べる子よりな記事になっております。
批判的な記事を読みたくない方はご遠慮下さい。





表紙のミレイの『オフィーリア』に惹かれて、装幀を見た瞬間「読みたい!」と思った作品。
岸田さんの作品は、読んでいて気が滅入るけれどもミステリとしてはなかなかどっかりとした
硬質な作品を書かれるという印象があって、読んだ作品は割とそれなりに楽しめたものが多かった
ので、今回もかなり期待をしていたのだけれど・・・むぅ。今回は正直云って期待はずれな印象
でした。
主人公さくらのキャラ造詣からして印象が薄く、どうもヒロインとしての地位を確立できない
まま終わってしまった感じ。彼女が映像記憶という特殊な能力を持っていて、彼女が描いた
不吉な絵から20年前の叔母の死が明らかにされ、その死の真相を探って行く、という大まかな
筋立てだけだとなかなか面白そうに思えるのだけれど、途中の展開がとにかくスローテンポで
読んでいて面白味がない。さくら視点の2008年と20年前の叔母を取り巻く人々の視点
(1988年)の章が交互に出て来る構成にはなっているのですが、どちらもいまひとつ緊迫感
に欠ける書き方で、しかもクライマックスがどこなのかわからないような真相の明かされ方。
伏線の貼り方も甘く、ミステリとしてのカタストロフが全くなかった。私が思うに、これは
真相が誰かの推理ではなく、当事者がそのまま体験したそのままの書き方で明かされているから
だと思う。さくらの叔母ゆう子を殺した犯人が明らかになるくだりはさすがに一応はさくらが
気付くような書き方になっているけれど、それももっと劇的に書けたところを淡々とさらっと
書いてしまっているから「ふーん」って感じだったし。どうも、一つ一つの設定の甘さが尾を
引いて、全体的に平板で面白味のない作品になってしまった感じがしました。材料は悪く
ないのに、料理の仕方が悪かったっていうか。キャラ造詣も薄くて、誰も印象に残る人物が
いないし。ゆう子の性格もなんだかブレがあって、好感も共感も覚えなかったし。ストーリー
展開にしても、キャラ造詣にしても、どこまで行っても残念な印象ばかり覚える作品でした。









以下、ネタバレあり。未読の方はご注意下さい。













タイトルもはまっているとは言い難い。Fって、藤野木ゆう子のFなのかな。読書メーター
感想見てたら、『ファミリー』のFって言ってる人もいたけど。藤野木ファミリーの悲劇?

あと、ゆう子が本当に好きだった人物って結局芳雄ってこと?でも、再会してからの彼女の
態度や言動を見て、そうした印象は全く感じられなかったのですが。むしろ振り回して言いように
使ってさよならしようとしている悪女にしか思えなかったのですが。ラストの池の中での二人の
(空想の?)シーンは唐突すぎて唖然としてしまいました。完全に芳雄の片想いにしか思え
なかったのに・・・。もう少し、それらしい描写を書いておくべきだったのでは。
翡翠の勾玉の扱いにしても、ゆう子の二人の子供の正体にしても、どうも書き方が杜撰で、
ミステリとしての魅力に欠けるところに不満を覚えました。
いくらでも、もっと面白く書けそうなのになぁ。




















うーん。完全に装幀負けしているような・・・。もちろん、この表紙は20年前に亡くなった
ゆう子が池に死体で浮かんでいた時の様子から来ているのだとは思うけど・・・。
あと、京都が舞台の割に、京都の魅力が感じられなかったのも残念でした。別に舞台が
京都である必要性がなかったというか。
ミステリとしても、人間ドラマとしても、家族の物語としても、どれも中途半端な印象しか
受けなかったのがなんとも。どれか一つに焦点しぼった方が良かったんじゃないのかな。
読みやすいからぐいぐい読まされちゃうんだけどね。物語としての面白味はなかったな(黒べ)。