ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

床品美帆「431秒後の殺人 京都辻占探偵六角」(東京創元社)

初めましての作家さん。ミステリ・フロンティアレーベルの作品は、食指が動く

ものはなるべく読むようにしています。これは、タイトルで何となく面白そうだな

と思ったので予約してみました。

うん、なるほど、いかにもこのレーベルから出そうな内容でしたね。京都を舞台

にした、連作ミステリ。

主人公は、駆け出しのカメラマン、安見直行。カメラの面白さを教えてくれた

写真展を営む叔父が、突然不可解な事故で亡くなった。叔父は生前、妻との離婚話

がこじれていて悩んでいる様子だった。事故は、妻と離婚の話し合いをして別れた

直後に起きていた為、妻の関与が疑われたが、事故の際、妻はタクシーの中にいた

ことが確認され、アリバイが成立した。しかし、そのことに納得がいかない直行は、

祖母の勧めに従って、叔父の事故が他殺である証拠を見つけてもらう為、失せ物

探しの達人だという六角法衣店の店主を訪ねることに――。

京都が舞台ということで、全体にはんなりとした空気が流れているところがなかなか

良いですね。探偵役の六角さんの飄々としたキャラクターも好みでしたし。名前の

通りまっすぐな性格の直行と正反対のキャラクターなので、なかなか良いコンビ

だと思いました。嫌がられてもめげずに六角さんの元に足繁く通う直行の人懐こい

ところが微笑ましかったです。なんだかんだで、六角さんも直行がぐいぐい来る

ところを拒まない辺り、本気で嫌なわけじゃないのがわかりますしね。正直、直行

のキャラは一作目の叔父さんの事件が解決した後はもう出て来ないかと思って

たんですけどね。二作目以降はまた違う依頼人がやって来る形式なのかと。二作目

読んで、変わらず直行視点が出て来たので、ちょっと嬉しかったです。

ただまぁ、ミステリ的には、ちょっとトリックに無理があるものが多かったかなぁ。

一作目のトリックも、計算上可能だとして、実際こんなに上手く行くとは思えないし。

この方法が上手くいかなくても、他にもいろいろ仕込んでいたってところにも、

ちょっとツッコミたくなりましたし。他の方法がヒットしたら、確実に犯人が

容疑者になっていたのでは・・・?ずさんすぎると呆れました。

二作目の襖絵のトリックは、割りとオーソドックスなもので、わかりやすかった

ですけど。でも、それだけに、ちょっとインパクトには欠けたかな。

三話目の映画館のトリックは、もう、ツッコミ所しかないって感じ。こんなの、

実際やって成功するわけないと思うけど・・・。絶対バレるでしょ。容疑者だって

少ないし。こんな空いている映画館で人を殺す必然性には、首を傾げざるを

得なかったです。大胆な手法という意味では斬新かもしれませんけど。奇抜なら

何でもアリってのはちょっと違うと思うんだけどなぁ。

四話目は、被害者の人間性が酷すぎた。その人間性が次第に浮き彫りになってきても、

まだ同じように接しようとする直行の言動が信じられなかったです。正直、刺されて

も仕方ないというか、自業自得としか思えなかったですね。骨壷(だと本人が判断

したもの)とその中の灰をそこら辺に捨てたってだけでも、もうその人間性

伺えましたしね。

五話目は、六角さん自身の過去が明らかになる作品。六角さんの母親失踪の真相は、

悲しいものでした。六角さんほどの勘の鋭さがあれば、もっと早く真相を解明

出来たような気もしましたが。敢えて、考えないようにしていたのかもしれません。

心電図のトリックは、なるほど、と思いました。六角法衣店の危機にハラハラ

しましたが、ラストの救いの神の手にはほっとしましたね。ま、上手く行き過ぎ

とは思いましたけど、六角さんの母親が息子の危機を感じて助けてくれたのかも

しれませんね。

ミステリ的にはところどころツッコミ所が見受けられましたが、キャラ読み出来るし、

軽く読めるのでなかなか楽しめました。

ただ、六角さんの辻占がいまいち作品に生かされてなかったのは残念だったかな。

別に辻占って設定なくても、本人の推理力で解決出来ちゃってたし。あと、一作目

で出てきた不思議な猫の存在も、もうちょっとその後も作品に絡ませて欲しかった

気がする。四話目で被害者が逃した猫は、実在する猫ですよねぇ?あの邪まな人間

に、あの猫が視える訳ないし。その辺りの書き方も、ちょっとわかりにくかった。

あと、ちょこちょこ誤字とか誤表記が見られたところも気になりました。校正、

もうちょっとしっかりしてくれー!って思いました^^;

 

そうそう、折り返しの近刊案内の二番目に、梓崎優さんの作品が載っていました。

次の次ってことは、来年前半までには出てくれるかなぁ。本当に久しぶりの

新刊になるので、とても楽しみですね。