ミステリ読書録

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仁木英之/「さびしい女神 僕僕先生」/新潮社刊

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仁木英之さんの「さびしい女神 僕僕先生」。

僕僕先生と旅を続ける王弁たち一行は、芋虫になってしまった蚕嬢の故郷にやってきた。そこは、
蚕嬢のおろかな過去の振る舞いによって、大旱魃が起きていた。旱魃の原因を作っている女神と
出会った王弁は、巷で恐れられている人物像とは違ってさびしげな彼女の真び姿を知り、なんとか
彼女を救いたいと旅に出る。しかし、王弁の振る舞いは思わぬ結果を引き起こすことに――人気
シリーズ待望の第四弾。


可愛らしい美少女仙人と、ニートの若者王弁の旅と恋を描いたこのシリーズも、もう第四弾に
なるのですね。今回も運良く予約なしで新刊コーナーにてゲット。意外に早く読むことが出来
ました。
今回はほとんどが王弁一人の物語。王弁は旱魃の女神・魃と出会い、彼女の苦しみを救おうと
四苦八苦。馬の吉良を道連れに、僕僕先生と別れて一人で旅をすることになります。旅先では
もちろん紆余曲折あって、たくさん大変な目に遭います。でも、そんな時でも王弁は僕僕先生の
手を借りようとはせずに、自分で打開策を見つけようと頑張ります。この辺りに太平楽なお気楽
ニートだった王弁も成長の兆しが伺えますね。強大な力を持った仙人の僕僕と釣り合う人に
なる為に、王弁も必死なのでしょう。今のままでは身分が違い過ぎて対等に付き合うなんて
到底無理ですからねぇ。

今回初登場のみにくい女神さま、魃(ばつ)。確かに、過去に彼女がやったことはあまりにも
酷い。けれども、それは彼女がやりたくてやったことではなく、仕方なくやらされた上での
こと。戦の兵器の如くに彼女を使い、彼女が役目を終えたとたんに彼女の存在を持て余し、挙句の
果てには封じて忌み嫌う人間たちの身勝手さに腹が立ちました。孤独な魃を放っておけない王弁
は本当にいいヤツだ。友の為に遥か遠くの神様に会いに行き、神様でもどうしようもないと
わかって壁にぶち当たって為す術がなくなっても、それでも彼女を救いたいと頑張る王弁の姿が
感動的です。ラストでは最愛の人と友との板挟み。その時でさえ、王弁は決して魃を見捨て
ようとしなかった。きっと僕僕先生の心中は複雑だったでしょうが、半分は王弁の勇姿が
嬉しかったりもしたんじゃないのかな。最後には王弁念願のアレも手に入れたし、これで
ほんの少し二人の距離がまた近くなったのかもしれません。でも、まだまだ恋人になれる
までには時間がかかりそうですけれど^^;
今回はそんな訳で王弁と僕僕先生が一緒にいるシーンがほとんどない。二人のいちゃいちゃを
楽しみにしているいち読者としては、恋愛部分はかなり物足りない。僕僕先生自体の出番も
今までで一番少なくて、一体先生どこにいるの~!って途中で叫びたくなりました^^:
王弁サイドの物語だけでも十分楽しめたのですけれど。やっぱり、僕僕先生が出て来ないと、
なんとなく味気ない。代わりに出て来るのが芋虫の蚕嬢やら、みにくい旱魃の女神・魃だったり
するし。やっぱり、このシリーズは僕僕先生の可愛いツンデレっぷりを楽しみにしている
ところがありますから(オヤジ)。

今回の物語の諸悪の根源である蚕嬢の振る舞いにはかなりムカっときた所もあったのですが、
なんとなく彼女のキャラって憎めないんですよね。予期せずコンビを組むことになった劉欣
とは結構いいコンビだな、と思いました。劉欣が容赦ない性格だから、蚕嬢の甘ったれなところ
をびしっと戒めてくれるし。でも、蚕嬢が本当に旱魃をなんとかしたいと漏らしたら、ちゃんと
協力してくれるようになって、案外懐の深い人(?)なんだなぁと見識を改めました。ただ、
この二人、結局何の役にも立っていなかったような・・・^^;

前作でこっぴどく恋に破れて抜け殻のようになっていた薄妃も少し元気を取り戻したようで、
ほっとしました。
前作までの旅の仲間たちもそれぞれに登場させて、キャラクターをおろそかにしない所がこの
シリーズの良い所ですね。ただ、お気に入りの第狸奴が今回全く出て来なかったのが残念では
ありましたが・・・。その代わりに吉良が活躍したから、まぁ、いいか。

魃と並んで今回初登場した二人の神様・燭陰と耕父もなかなか良いキャラでした。二人の深い
友情が良かったですね。今後また出て来ることもあるのかな。二人はどちらも王弁のことが
気に入った様子だったから、また登場しそうな気がするな。

頼りないヘタレニートキャラだった王弁が、ちょっぴり逞しく成長する姿がとても爽やかに
描かれていて良かったです。ラストの魃との友情物語にもほろりと出来ましたし。物語展開としては、
非常に緩急あって面白いストーリーになっていたのではないでしょうか。新キャラたちも
それぞれに立っていて、物語に色を添えているし、やっぱり、このシリーズは作者が楽しんで
書いているのが伝わって来るところがいいですね。仙人と人間の恋がこの先どうなるのか、
まだまだ続きが気になるシリーズです。

ちなみに、今回の表紙は紫に近いようなピンク色(画像だと薄紫っぽく見えるけど、実物は
ピンク色に近い色合いです)。今回の色もなかなか素敵ですね。
書棚にシリーズ刊行順に並べたらとっても綺麗そうだ。