ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

紅玉いづき「サエズリ図書館のワルツさん1」/太田忠司「死の天使はドミノを倒す」

どうもみなさま、こんばんは。
涼しくなって、日が落ちるのが早くなりましたねー。
私は数日前から風邪気味で、今日は一日家でおとなしくしておりました(相方から
外出禁止令が出たせいもある^^;)。
でも、一日ゆっくり休んだせいか、大分楽になりました。昨年夏に新居に移って以来、
一度も風邪を引いていなかったので、連続風邪引かない日数がストップしてしまって、
ちょっと悲しい。最近仕事が忙しく、いろいろと疲れが出たみたいです。季節の変わり目
でもありますしね。
みなさまもどうぞ、ご自愛下さいませ。


さて、今回は二冊。予約本も続々と回って来ておりまして、図書館HPを確認する度に
戦々恐々としているワタクシなのでありました(またかよ・・・(呆))。


では、一冊づつ感想を~。


紅玉いづきサエズリ図書館のワルツさん1」(星海社
久しぶりの紅玉さん。初めて読んだミミズクと夜の王が気に入ったので、その後
一作くらいは読んだのだけど、その後はご無沙汰しちゃってました。
お友だちブロガーの苗坊さんが記事にしてらして、気になる内容だったので
予約してみました。図書館が舞台と聞いては、読まずにいられませんからね!(笑)
タイトルから、外国が舞台なのかと思っていたので、読んでみたら国内もので
意表をつかれました。でも、もっと意表をつかれたのは、近未来のお話だったこと
ですが(苦笑)。
戦争によって首都圏が壊滅状態に陥った未来の日本が舞台。紙媒体の本の存在が消え、
電子書籍が主流になった世界。紙の本は非常に高価で貴重な『過去の遺物』になっています。
地方のある町に、ひっそりと存在する紙媒体の『本』だけを集めたサエズリ図書館。
その若き女性館長であるワルツさんと、そこを訪れる来館者たちの物語です。
うん、一言でいえば、『超私好み!!』
なかなか独創的な設定で、ありきたりな、図書館をテーマにした物語じゃないところが
いいです(いや、ありきたりのだって、図書館や本が出て来るだけで私好みの物語に
なり得る訳なのだけれど)。ちょっとSFっぽい世界観というか。時代設定が近未来ですしね。
紙媒体の『本』が皆無の世の中ってだけで、なんだか暗澹とする気持ちにはなるの
だけれど、そんな世界でも、ワルツさんの図書館みたいな場所が存在するってだけで、
なんだか心がほっこりしてしまいました。本が簡単に読めない世の中なんて、私に
とっては地獄にいるのと同じようなものです。でも、震災のような出来事があると、
そういう暗黒の世の中がいつ来ないとも限らない訳で・・・なんだか、完全に絵空事
お話とも思えなかったです。
はじめは膨大な本の知識がある優しい司書さんってだけの印象だったワルツさんですが、
一話ごとに影の部分が垣間見え始めます。その理由は、彼女の出自にあったと本書の
最終話で明らかにされるのですが。予想外に重い彼女の身の上に、胸が苦しくなりました。
それと同時に、本に対する彼女の真摯な思いと、ブレない信念に胸が熱くもなりました。
ワルツさんにとって、サエズリ図書館とその本たちは、何よりも大事なもの。相手に
どんな事情があったとしても、サエズリ図書館の本は一冊たりとて譲らない。第四話は、
まさに彼女のその信念がよく現れているエピソードが描かれています。本を盗んだ人物
の事情を鑑みると、同情の余地はあったと思います。けれども、彼女はそれでもたった
一冊の本すら手放そうとしなかった。危険な都市部までわざわざ一冊の本を取り返す為に
何日も図書館を空けた。それほど、彼女の蔵書は彼女にとって大事なものだということです。
それは、彼女にとって一番大事な、ある人物から譲り受けたものだから・・・。彼女と
その人物との絆の深さにも感動しました。
電子書籍が紙媒体の『本』を席巻しそうな勢いの現在ですが、やっぱり私は紙の『本』を
愛していたい、と心からそう思える作品でした。ワルツさんのような司書さんがいる
図書館だったら、私も足しげく通っちゃうだろうなぁ。こんな人と是非お友だちに
なりたいなぁ。
すべての本好きさんに是非オススメしたい作品ですね。二巻もあるようなので、早速
予約しておかなくては。
苗坊さん、素敵な作品をご紹介頂き、ありがとうございました。


太田忠司「死の天使はドミノを倒す」(文藝春秋
太田さんの新作。司法の問題を取り上げた、かなりシリアスな長編ミステリー。『死』
『自殺』、あるいは『自殺幇助』や世間から白い目で見られがちな人権派弁護士』などについて、
その都度考えさせられる力作だと思いました。
特に、人権派弁護士については、私も常々彼らのやり方に苦々しい気持ちを抱いていたので、
今回初めて、彼ら側の主張にも彼らなりの考えがあるのだ、ということに思い至りました。
だからといって、彼らを養護する立場にも絶対なれはしないのだけれど。それでも、彼らの
主張を正面からぶつけられたら、本書の主人公陽一のように、言いくるめられて反論出来なく
なってしまうのではないか、と危惧せざるを得ませんでした。多分に、詭弁にも感じました
けれどね。
主人公は、かつてはそこそこ人気を博していたけれども、最近では落ち目になり、仕事も
なくなって生活に窮する小説家の陽一。父親を癌で亡くし、葬儀代を支払う為に父の預金を
下ろそうとした所、家族全員の戸籍抄本と印鑑証明が必要だと断られます。そこで、家族とは
縁を切っていた弟に連絡を取ろうとするも、失踪していたことが判明。弟は、人権派弁護士
としてテレビにもでた有名人でした。殺人事件の加害者を養護する立場に立った弟のせいで、
陽一たち家族は度々言われのない中傷にさらされて来ました。陽一はそんな弟に対して苦々しい
気持ちを持っていましたが、なんとかして弟に会わねばならない立場に立たされ、彼を捜し始めます。
そんな中で、弟が失踪する直前、ある事件の関係者に会っていたことがわかり、陽一も彼の
足あとを辿ってある人物に行き付きます。危険な香りのするその人物と会った後の陽一の頭の中
に、弟はすでに死んでいるのではないかという疑問が生じ始め・・・というのが大筋。
途中に挟まれる意味深な断片が、最後にあっと言わせる仕掛けになっているところが非常に
巧い。完全にミスリードさせられていたなぁ。弟の薫に関しても。全然予想外の展開に
なって驚かされました。失踪した薫が何らかの事件に巻き込まれているのだと思い込んで
いたので。
ある人物が怪しい、というのは最初の段階から予想してはいたのですが、ああいう風に繋がる
とは思わなかった。陽一にとっては可哀想な展開ではありましたが。でも、最悪の結末に
ならずにほっとしました。最後の最後、その人物の思惑にはぞくっとさせられるものが
ありました。でも、その人物の真意はよくわからなかったなぁ。リドル・ストーリーっぽく
終わっているので、どこか不安感を誘うというか、読み終えても何かすっきりしないぞわぞわ感
を覚えました。
好感を覚える人物がほとんど出てこない為、あまり気持ちのいい読書ではなかったけれど、
ミステリとしてはなかなかよく考えられた良作だと思いました。太田さんって、基本的には
本格を愛するミステリ作家なんですよね。ほのぼのした作風の作品が多いから、たまに
忘れそうになるけど(苦笑)。でも、やっぱり私はほのぼの路線の太田作品の方が好きだなぁ。
また、甘栗少年シリーズ書いてくれないかな。って、それより、止まってる狩野俊介シリーズの
続きをさっさと読めよ、と言われそうですけど(苦笑)。