ミステリ読書録

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朱野帰子/「マタタビ潔子の猫魂」/メディアファクトリー刊

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朱野帰子さんの「マタタビ潔子の猫魂」。

おれは聖武天皇の御代から続く憑き物筋、夏梅種の家系である田万川家の猫魂。由緒ある猫の霊だ。
現在、その田万川家の末裔であり、唯一憑き物筋の血を受け継いだおれの主君、田万川潔子の家に
居候中だ。しかし、この主君の潔子、本当にダメな女なのだ。地味で無口で友達もいない上、上司
や先輩、はたまた後輩にまで仕事を押し付けられ言いなりになって文句の一つも言えやしない。
帰宅すればそのストレスを思い出してベッドに突っ伏して泣いたりする。そんな潔子が最近心酔
し始めたのは天堂辛彦という怪しげな占い師。彼が書いた格言集を読んではその言葉を心のより
所にしているらしい。おれからしてみれば、いかにもうさんくさい言葉ばかりなのだが。全く、
困った人間だ。そんな潔子のストレスが最大限に貯まり、その負のパワーが爆発した時、そこに
空間のひずみが生じ、おれの猫魂としての強い霊力を主君の潔子に憑依させることができるのだ。
そして、ある日先輩OLへの怒りが爆発した潔子に憑依したおれは、彼女の怒りの矛先である先輩
OLへの仕返しするべく行動を開始した――(「第一話鬼海星」)。第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞
受賞作。


本屋で見かけてタイトルと内容が面白そうだったので手に取ってみました。特別、ダ・ヴィンチ
文学賞に関心があった訳でもないのですが^^;多分猫の妖怪が活躍するお話なんだろうなーと
思いましたが、その通りでした(笑)。ただ、その内容は想像していたのとは大幅に違ってました。
表紙の雰囲気から、主人公の女の子はとても気の強い美女で、妖怪の猫を高飛車に操ったりする
のかな、なんて思ったのですが、180度正反対。この主人公の潔子、ダメなOL代表みたいな、
気が弱くていつもうじうじしていて、会社のいろんな人から理不尽なことを言われても文句一つ
言い返せずストレスを心に溜め込むような性格。読んでいてかなりこちらまでイライラさせられる
ところもあるのですが、その実、なんだか他人とは思えないような共感出来る部分もありまして、
非常に読んでいて痛かったです。もちろん、潔子の消極的な性格はちょっと度を超えたところが
あるので、もうちょっと言い返せよ!とか、さすがにそこは断れよ!とか、ついつい度々言いたく
なってしまったのですが^^;彼女にちょっかいをかける会社の人間たちがまたことごとく常識
はずれな嫌味な人たちばかりで、こんな会社嫌だーーと叫びたくなってしまったのですが(苦笑)。
ただ、そうしたはた迷惑な潔子の同僚たちが理不尽な行動を取るのには、実は原因がありまして、
どの人物も心の弱みにつけ込まれて、ある種の憑き物に憑依されてしまっている状態なのです。
そうした憑依された人物たちは、潔子のような気弱で言いなりになりそうな人物を標的にする。
だから毎回潔子が狙われてしまう訳ですね。気が弱いくせに、憑き物筋の血筋なんて受け継いで
しまった潔子は哀れというしかありませんが、そうした迷惑をかけられた人物たちに、飼い猫のメロ
が憑依した潔子が仕返しをしていくくだりはなかなかに痛快。同じパターンが全部の作品に踏襲
されているので、連続ドラマを観ているようなテンポの良さと安心感があって、どのお話も楽しく
読めました。ラノベのような軽さではありますが、鬱陶しいくらいにじめじめした性格の潔子と、
気位の高い気の強い飼い猫のメロの性格が対照的なのが良いです。潔子があやしげな占い師に
心酔して、訳のわからない格言に感動してたりするのも面白いし、長い年月を生きてきた猫又の
親玉である黒ブチ先生のキャラも好きでした。四話のラストシーンは圧巻。しかし、ここまで
猫が集結した光景ってどうなんだ、と想像するとちょっと怖いものがありますが、猫好きならば
かなり興奮するんじゃないのかな。表紙もアニメっぽいけど、これは実際アニメ化したらなかなか
壮観な映像になって見ごたえがありそう。四匹の狸の親子が出て来た時は、ついつい森見さんの
有頂天家族』のあの狸親子か!?と思ってしまったけれど(笑)。しかし、ここまで猫たちを
集める力を持っている潔子が猫○○○○○・・・お気の毒さま、としか(苦笑)。

まぁ、軽いので文学としての深みなんてものは全くありませんが、気楽に読めるエンタメとして
とっても楽しく痛快に読めました。妖怪ものって聞くとついつい手に取りたくなってしまうの
だけど、少し前に同じく妖怪ものと聞いて読んだ叶泉さんの『お稲荷さんが通る』よりもずっと
こっちの方が私は面白かったな(イマイチ乗り気れなかった為、結局記事にもしていないという^^;)。

派遣OLである潔子の悩みや鬱屈がリアルに伝わって来たのも良かったのかも。特に、第三話の
お見合いのお話とか、ホントにリアルに胸に突き刺さってきました^^;潔子が母親から言われる
言葉とかも、耳に痛い、痛い。たたみかけるように送られてくる、幸せに暮らしている元同級生の
専業主婦たちの勝ち誇ったようなメールを読む潔子の気持ちも痛い程共感出来ました(苦笑)。

『孤独を愛せ。ひとりで生きる女は美しい』

そんな時にこんな言葉を読んだら、私だって天堂辛彦先生を信じちゃうかも(笑)。でも、潔子
がそこまで入れ込んでいた天堂先生の正体には笑ってしまいました(笑)。その事実を潔子が
知る日が来るのかどうかはわかりませんが、知らないうちが幸せなのは言うまでもありません(苦笑)。

肩の力を抜いて気軽に楽しめる一冊。妖怪モノや猫好きさんには特にオススメしたいですね。
ちなみに、作者は「あけの かえるこ」さんと読むそうです。かえるこ・・・斬新なペンネームだね(笑)。