ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司/「和菓子のアン」/光文社刊

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坂木司さんの「和菓子のアン」。

高校を卒業して、やることもなくニートの道をつき進んでいた杏子ことアンちゃん。このままじゃ
まずいと取り敢えずアルバイト先を見つけようと、飛び込んだのは東京百貨店のデパ地下にある
和菓子舗『みつ屋』。個性的な同僚たちに囲まれながら、和菓子の奥深さに触れ、刺激的な毎日を
送る日々。丸っこい体型にコンプレックスはあるけれど、気にせず突き進むのみ!社会人
一年目のアンちゃんの爽やかお仕事体験記。


うわーい、面白かったぁ・・・!やっぱり、坂木さんのお仕事シリーズははずれがないなぁ。
去年の誕生日に職場の人から買ってもらった『ジャーロ』で一作だけ読んで面白いとは
思っていたのだけれど、こうして一冊にまとまるとまた全然面白さが違う。しかも、私が
読んだのって最終話の前半だったんだなぁとビックリ^^;
高校卒業してやりたいことが見つからず、取り敢えずのつもりで飛び込んだ和菓子屋さんで
アルバイトすることになった杏子ことアンちゃんのお仕事奮闘記。アンちゃんのキャラ造詣が
とてもいいですね。太めで自分の体系にコンプレックスを感じているけれど、それに必要以上に
引け目を感じてネガティブになったりせず、いつも前向きに捉えて頑張るアンちゃんの性格に
好感が持てました。ぷくぷく、ぷにぷにした二の腕やほっぺたの描写に、ついつい私も店長や立花
さんのように、つんつんむにむにしたくなってしまった(笑)。これは赤ちゃんのほっぺたとか
むちむちの足を触りたくなるのと一緒よね・・・!つるつるすべすべ、触り心地が良くって、
気持ちもほっこりしちゃう。終盤で、アンちゃんが大福に似ているって言った立花さんの発言
には、私もアンちゃん同様かなりムッとしたのだけれど、彼がそう言った言葉の裏の真意には
共感出来ました。でも、それを女の子の前で言うのはやっぱりデリカシーに欠けるよね。オトメン
なくせに、微妙な女心理のわからんやつよのぅ。容姿がいいやつはこれだから・・・むぅ。

美人だけどちょっぴりエキセントリックな性格の椿店長、一見クールでかっこいいのに、内面は
乙女なオトメンで和菓子職人志望の立花さん(飛鳥ちゃんか!笑)、可愛いけれど実は元ヤン
のアルバイト仲間桜井さん、脇を固めるキャラたちもみんな素敵な人物ばかり。立花さんの
和菓子の師匠・松本さんも職人気質だけど茶目っ気があって、アンちゃんとのやりとりが
すごく好きでした。

そして、なんといっても出て来る和菓子の美味しそうなことったら!和菓子の世界の奥深さも随所
で感じられて、和菓子世界の魅力にやられっぱなし。日本の花鳥風月をそのまま表したような美しさと
物語性を持つ和菓子の知られざる背景を知って勉強になりました。何気なく食べていたおはぎ
(ぼたもち)にあんなに名前があるとは。ちょこちょこと出て来る和菓子トリビアに何度もへ~を
連発しちゃいました(笑)。

でも、和菓子の魅力だけじゃなく、坂木さんらしく、和菓子を通して人と人との触れ合いの
温かさや切なさがきちんと盛り込まれているところが秀逸。辛いことがあっても、前向きに
生きなきゃいけないって教えてくれる作品でした。アンちゃんのほのぼのした容姿と性格も
ほんわか気持ちがあったかくなりました。

それなりに長くお付き合いして下さっている方なら私の現在の職業はご存知かと思いますが、
実は、今の仕事の前はワタクシ、お菓子業界で販売をやっていたのです。都内のデパ地下にも
たくさん店舗がある、東京ではかなり有名な(多分)お菓子屋さん。といっても、私が配属されて
いたのはデパ地下ではなかったので、アンちゃんの職場とは微妙に雰囲気が違うのですが。それでも、
やっぱり自分の知ってる世界のお話なので、かなり共感しながら読めました。これは『シンデレラ・
ティース』の時と一緒だね。奇しくも、私が関わった二つの業界、どちらもこのお仕事シリーズの
題材にしてくれて、なんだかとっても嬉しい。次はクリーニング屋で働こうかな(笑)。そういえば、
新井クリーニング店とのリンクも嬉しかった。新井クリーニング店にアンちゃんのお母さんが
勤めているらしいけど、全然覚えてない^^;梅本さんって出て来たのかなぁ。再読したい・・・。

登場人物の名前がみんな植物に関係しているのもちょっと楽しいですね。梅本、椿、立花(橘)、
桜井、松本、杉山、楠田、五月(サツキ)・・・脇役までしっかり植物の名前が入ってる。
なんか風流だ(笑)。

アンちゃんが容姿にコンプレックス持ってるせいか、恋愛はほとんど入ってないけど、なんとなく
このまま仕事を続けて行ったら、もしかしたらオトメン立花君とそういう雰囲気になったりする
のかも?と思わなくもない。アンちゃんのおみくじの『待ち人・来るがわかりにくし』ってのが
なんとも意味深だし。立花さんは乙女な心を持っていても、恋愛はノーマルって言ってるしねぇ。
なんか、いいカップルになりそうな気がするんだけどな。どうなんだろー。


ふふふ。やっぱり坂木さんの作品はいいなぁ。もう、ほんとに読んでて楽しかった。読み終えて
心がほっと温かくなる、ハートフルミステリ。面白かったぁ。続編書いて欲しい~。
そして、めちゃくちゃ和菓子が食べたいよ、今!!明日買いに行こうかな(笑)。
装幀からして超ラブリーです(この表紙は、絶対立花さんが好きそうな光景だ!笑)。
きれいにぽこぽこと並んだおまんじゅうが美味しそうだぁ。じゅる。
スイーツ好きにはたまらん作品なのでした。ごちそうさま!