近藤史恵さんの「薔薇を拒む」。
施設で育った内気な少年・博人は、進学への援助を得るため、同い年の樋野と陸の孤島にある
屋敷で働き始めた。整った容姿の樋野には壮絶な過去が。博人は令嬢の小夜に恋心を抱くが、
陰惨な事件で穏やかだった生活は一変する。それは悪意が渦巻く屋敷で始まる、悲劇の序章に
過ぎなかった――(あらすじ抜粋)。
諸事情により(もちろんW杯^^;)、あらすじ抜粋ですみません(手抜き)。近藤さんの新刊。
タイトルや装幀から、なにやら好みの雰囲気だぞ、と思っていたのですが、その通りの世界観で
なかなか良かったです。陸の孤島のお屋敷で学費を援助してもらいながら働くことになった美貌
の少年、博人と樋野。曰くありげなお屋敷事情に、何か秘密を抱えていそうで、一癖も二癖も
ありそうな登場人物たち。少年二人は、なぜこのお屋敷に呼ばれたのか――独特の緊迫感を持って
読み進められました。お屋敷の美しいお嬢様、小夜を巡る二人の少年の恋の鞘当ての部分も読み
所の一つ。激しく小夜を愛しながらも想いを封じ込める博人と、一度愛する人が出来たらその人を
壊したくなるという破壊への激情を持つ樋野。この三角関係が最後に思わぬ結末をもたらします。
正直、ミステリとしてはさほどの読ませ所がありません。湖で起きた殺人事件の真相は予想の
範囲内だし、犯人も大して意外性がなく、あっさり明かされてしまうので拍子抜け。うーん、
じわりじわりと迫り来るような緊迫感があったので、もうひとひねりはあるかな~と思って
いただけに、この辺りはちょっと残念。
ただ、秀逸なのは、その後。とても皮肉であっと言わせる結末が用意されています。最後まで
読むと、このタイトルも実に意味深なことに気付けると思います。このタイトルに関連している
作中の引用詩、フランスで有名な詩と書かれているのに、仏文出身のくせに知りませんでした^^;
以下、ラストに触れています。未読の方はご注意下さい。
ラストに出て来る人物、気弱で大人しいと思っていたけれど、実は非常に強かで計算高い人物
だったのでしょうね。
果たして、彼が手に入れたもので、彼は本当に幸せになれたと云えるのでしょうか。でも、彼には
差し出された薔薇を拒むことは出来なかったのでしょう。それ程に、手に入れた薔薇は彼に
とって魅力のあるものだった。その薔薇の発する言葉の刺で、幾度も傷つけられるとわかって
いても。
結局小夜は本当に樋野を愛していたということなんでしょうか。それとも、助けてもらったことで、
贋物だった愛が真実に変わったということなのか。その辺りは曖昧なままなので、読者それぞれの
考えに委ねているってことなんでしょうね。私は、火事の前に樋野と付き合っていたということは、
本当に愛しているのは博人だったのではないかと思ったりしていたのだけれど・・・。復讐の為に、
裏切ることを前提で付き合っていたとしたら、傷つけたくないのは博人だったのかな、と。小夜が
どう思っていたのかは書いて欲しかった所だけど、多分その辺りは敢えてぼかしたんでしょうね。
いろいろと考えさせられるラストでありました。
一応現代が舞台なのだろうけど(主人公たちが携帯持ってるし)、舞台が湖畔の洋館なので、
明治や昭和のような、ちょっと時代がかったレトロな雰囲気がありました。どこか歪んだ頽廃美
のようなものが漂っていて、独特の耽美な世界観が非常に好みでした。英国のゴシックミステリ
みたいな感じ?登場人物たちの歪んだ愛憎ドラマは一昔前の大河ドラマみたいでしたが^^;
これ、昼ドラでやったら結構はまるんじゃないかな~。一世を風靡した『愛の嵐』みたいなね(笑)。
装幀も作風と合っていて美しくて好きですね。
耽美でゴシックな世界観が好きな人にはオススメかな。私は好きでした。