ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

水生大海/「かいぶつのまち」/原書房刊

イメージ 1

水生大海さんの「かいつぶのまち」。

伝説のストリート劇団『羅針盤』の元メンバー、瑠美、バタ、蘭。彼女たちが卒業してから5年が
経ち、それぞれの道を歩んでいた。瑠美とバタの母校・橘学院高等部の演劇部が、瑠美の書いた
脚本で演劇大会に出場することになり、久しぶりに三人揃って再会した。会場で現役演劇部員たちや
高校時代に瑠美と確執のあった演劇部顧問とも挨拶を済ませた三人は、大会が始まるまでの時間
つぶしに、公開リハーサルでの彼らの演技を撮影したDVDを観ることになった。しかし、瑠美は
自分が書いた脚本と彼らの演劇には大きな改変があることに気づく。重要な小道具である筈の短剣に
関するエピソードがまるまる削られていたのだ。そして、翌日の本番を前にして、出演者や関係者
たちが次々と体調を崩し始めた。さらに主演の女生徒の元に繰り返しナイフが届けられ、女生徒は
パニック状態に。混乱する彼らの背後には糸を引く人物が――「かいぶつ」とは誰なのか。


個人的にかなりのヒット作だった、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作少女たちの羅針盤
の続編です。まさか大賞そっちのけで映画化され続編も出るとは・・・まぁ、映画化されたから続編が出たとも
言えるのでしょうけど^^;大賞の方を映画化しても絶対ヒットしないでしょうしねぇ(苦笑)。
羅針盤のメンバーたちとまた会えたのは嬉しかったのですが、正直前作より全体的にインパクトに
欠けるかなぁという印象。現役高校生たちにわざわざ羅針盤のメンバーたちを絡ませた必要性が
あまり感じられなかった。それに、現役高校生たちと顧問の教師たちのお互いの関係や演劇への
接し方にどうも違和感があって、彼らに好感が持てなかったことも大きい。メンバーが違うの
だから仕方がないとはいえ、演劇に対する高校生たちの熱き情熱が感じられて勢いのあった前作
に比べると、どうしても全体的に見劣りがしてしまうかな、という感じがしました。特に渡見の
キャラは受け入れ難い部分が多かった。いくら演劇に対して熱い情熱を持っているとしても、いち
高校教師が、具合が悪くてふらふらになってる生徒を無理矢理舞台に上がらせるっていうのは
やりすぎでしょう。紙おむつには目が点になりましたよ・・・スパルタも甚だしい。そりゃ、
クレームも来るよ^^;部長のくせに高見澤の演劇への冷めた態度にも好感持てなかったのですが
・・・彼の冷めた態度には一応理由があることが終盤でわかるので、その辺りは後半大分印象が
変わったのですが。

でも、一番残念だったのは、ミステリーとしての出来。「かいぶつ」の正体ははっきり云って
ほとんどの人が当たりをつけられるのではないかなぁ。私も、絶対こいつ怪しいぞ、と思って
いた人物そのまんまだったし^^;かなり肩透かしでした。一応その後にもう一捻りしては
あるのですが、そこだけではいまひとつインパクトに欠けるというか。全体的に小粒な印象は
否めない。ミステリーとしても青春小説としても、ちょっと中途半端になってしまったかな、
という感じでした。

でも、瑠美が脚本を書いた「かいぶつのまち」の作中作自体はすごく面白いと思いました。
きちんと一作のお話として読んでみたいと思ったくらい。ラスト、犯人を追い詰めるために
舞台上で仕掛けた演出はなかなか良かったと思います。ただ、惜しむらくは犯人が小粒な人物
すぎて、イマイチ盛り上がりに欠けてしまったこと。意外性もなかったしねぇ・・・。

今回一番驚いたのは、バタの変貌でしょうかね。まさか名前さえ変わってしまうとは・・・。
宝塚に入ったら人気出そうだ(笑)。

まぁ、映画化に際して無理矢理続編を書いてしまった感がなきにしもあらずで、今後シリーズ化
して行くかどうかは疑問を覚えるところです。ただ、前作同様、リーダビリティがあってぐいぐい
読ませるところは大いに評価したい。
今後、一体どんな方向の作品を書くのか、楽しみな作家なのは間違いありません。
映画の出来はどうなんでしょうね。そちらもちょっと気になるところです。