ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乙一/「箱庭図書館」/集英社刊

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乙一さんの「箱庭図書館」。

少年が小説家になった理由。コンビニ強盗との奇妙な共同作業。ふたりぼっちの文芸部員の青くて
イタいやりとり。謎の鍵にあう鍵穴をさがす冒険。ふと迷いこんだ子どもたちだけの夜の王国。
雪の上の靴跡からはじまる不思議な出会い。集英社WEB文芸「RENZ ABURO」の人気
企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6つの物語(紹介文抜粋)。


ひさーーーーびさに、乙一名義で新刊が出ました。本屋で売ってるのを見た時は、テンションMAX
になって、一人で軽く小躍りしちゃいましたよ(笑)。一体いつぶりの新刊なんですかね。
とはいえ、本書、全く純粋な乙一オリジナル作品集とも言い切れないのです。というのも、今回
収録されている6編の短編は、すべて、元ネタがあります。しかも、すべてが素人さんのもの。
実は、本書は、乙一さんがウェブ上で『ボツとなった小説のネタ』を募集し、それを乙一さんが
手を加えて新たな作品に生まれ変わらせたものばかりを集めた短編集なのです。あまり過去に
類を見ない試みだと思うのですけれど。なかなか面白い趣向ですよね。とはいえ、乙一ファン
としては、欲を言えば全編オリジナルの作品が読みたかったところなのですが・・・。ただ、
元ネタが他人のものとはいえ、文章や作品構成その他はすべて乙一さんご本人によるものなので、
しっかり乙一風味の作品集にはなっていると思います。書評をいろいろ見ると、『ファンには
物足りない』とか『求めている乙一作品とは違う』みたいなご意見も多いようですが、私は
十分楽しめました。確かにちょっと薄味なのは否めない気もしますが。
元ネタが全部違う人によるものなので、内容的には、良く云えばバラエティに富んでいる、悪く
云えば散漫という印象も受けるのですが、舞台を文善寺町という一つの街に限定したり、その
街にある図書館を毎回登場させたり、共通して潮音さんという本バカ(笑)の女性を登場させたりと、
それぞれの作品で細かくリンクを持たせることで、一冊通して上手くまとまりのある作品集に
仕立てられていると思います。一作ごと単独で読んでも面白いのですが、全作通して細かい
リンクを探すのも楽しみの一つだと思います。無理矢理繋げた感じの作品もありますけれど^^;

個人的には、『小説家のつくり方』『青春絶縁体』『ホワイト・ステップ』が好きかな。
特に『青春~』と『ホワイト~』は、かなり本来の乙一作品に近い設定と雰囲気のように思い
ました。『青春~』の痛い主人公キャラとかモロにだし、『ホワイト~』はあとがきで、ご自身も
過去に書いた作品と雰囲気が似てると認めてらっしゃるくらいですし。『青春~』の僕と先輩の
毒舌の応酬が好きでした。その後の展開もラストも良かった。『ホワイト~』は設定の面白さの
勝利って感じ。出だしの僕と友人の不毛な男の会話は、ちょっぴり森見さん風味。冒頭の『小説家~』
は、中田永一名義の作品にちょっと近い感じのがありました。ラストのノートに纏わる黒オチには
息を飲みました。こういう落とし方の巧さは乙一さんならではって感じがしますね。潮音さんと
弟のやり取りが好きでした。

上記に挙げなかった『コンビニ日和!』は、乙一さんというよりは、伊坂さんっぽい作品。
コンビニ強盗ってところがいかにも。オチがなかなかに痛快なところもそれっぽいかな。
『ワンダーランド』は、一番ミステリ色の強い作品。これも良かったのですが、ミステリ部分で
なんとなく腑に落ちないところがあったんですよね。スニーカーの部分。でも、ぞくりとさせる
ラストは好み。
『王国の旗』は6作の中では一番好みからはずれていたかも。王国の少年たちに好感が持てなかった
のが一番の原因かなぁ。結局何が彼らの目的だったのかもよくわからなかったし。子供たちだけで
王国を作るということ自体は理解出来るんですが。王国の子供たちが、主人公が王国の一員には
なれないと知った後で態度が豹変して、監禁しちゃうところに嫌悪感を覚えました。


ちょっとウケたのは、あとがきで、乙一さんが『自分は別名義でラブコメの小説も書いているん
ですが』と認めちゃったところ。もう、周知の事実だと覚って開き直ったんですかね(苦笑)。
別に隠すことじゃなかったのなら、素直に乙一名義で書けば良かったのに^^;乙一名義で
ブコメは書きたくなかったってことなんでしょうかね(苦笑)。

まぁ、何にせよ、新作の乙一作品が読めたってだけで、めでたいことです。これを機にじゃんじゃん
新作を・・・ってのは、やっぱり無理なんでしょうねぇ・・・。本書も、小説のネタがないから
生まれた企画ですしね^^;
タイトルも募集して決まったそうですが、とてもいいタイトルですね。『図書館』ってつくだけ
でも本好きにとってはワクワクするし、そこに『箱庭』がつくと、より想像力を掻き立てられる
ように感じます。
今までの作品とはちょっぴり毛色が変わった短篇集ではありますが、乙一ファンなら必読でしょう。