ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「夜に駆ける YOASOBI小説集」(双葉社)

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最近大人気の音楽デュオ『YOASOBI』の曲四作の原作小説集。YOASOBIのもともとの

コンセプトが『小説を音学にするユニット』だそうで、原作ありきの曲作りというのが

面白いなぁと思ってました。最近好きでYou Tubeでよく聴いているので、原作小説って

どんなのなのかな~と興味をひかれて、借りてみました。

今回は四作が収録されていまして、あの大ヒットした『夜に駆ける』の原作小説も

収録されています(星野舞夜「タナトスの誘惑/夜に駆ける」)。ラストの一作は

この本では未発表曲となっていますが、現在は『アンコール』という曲として

すでに発表されています。

正直、一作ごとの小説のクオリティとしては何ということもないものばかりです。

あまりプロの小説家が書いたという感じはないです。どうも、ネットで発表された

素人さんの小説ばかりのようですね。YOASOBIのファンが読むにはいいかもしれ

ませんが・・・。

ただ、原作のこういう背景があるから、ああいう曲になったんだな、と知るには

いいのかな、と。『夜に駆ける』なんか、あのテンポの速いキャッチーな明るめの

曲の背景が、こんなに暗いテーマのものなの!?と驚いてしまった。一部の音楽

サイトかなんかで曲の内容が問題になって配信停止になったとかのニュースを

聞いたことがあったんだけど、こういうことだったのか、と納得しました。

まぁ、なんとなく知ってはいたのですけど。まさか、こんなに直球に○○を

テーマにした作品だったとは。巻末の本人たちの対談でAYASEさんがおっしゃって

いたけど、こういう内容だからこそ敢えて明るい曲調にしたのだとか。この

原作からあの名曲が生まれたとは、すごいなぁと素直に感心してしまいました。

二作目の『あの夢をなぞって』の原作小説(いしき蒼太「夢の雫と星の花」)は、

四作の中で一番長い。予知能力を持つ高校生男女の青春小説。曲には予知能力とかの

設定は一切出て来ないので、ちょっとびっくりしました。小説の青春部分だけ

切り取ったというのが面白い。

いろいろ設定にツッコミどころが満載だったので、余計な部分はすべて排除

して曲を作ったのは成功だったと思いますね。

三作目は『たぶん』の原作(しなの「たぶん」)。巻末の対談では、男女の別れを

テーマにした作品だと書いてあったのだけど、原作読んでて、私は男同士の

カップルを想像してしまった。だって、語り手はどう考えても男性だし、呼びかけの

相手を『あいつ』って呼んでるから。はっきり相手が男か女かも書いてないしね。

それは、読み手が自由に受け取ればいいんじゃないかと思うな。曲聴いてる限りでは

もちろん男女間の別れをテーマにしていると思ってたんだけどね。

最後の『アンコール』は、大好きな曲で、こういう原作小説(水上下波「世界のおわり

と、さよならのうた」)の世界観があっての曲だったんだなぁとわかって良かった

です。終末思想を描いた物語はいろんな小説家が書いているけど、主人公が一人

取り残された街で楽器を集めている、という設定はすごく好きだな、と思いました。

明日世界が終わってしまうという設定ですが、ラストは少し救いが感じられるもので

良かったです。

ikuraさんの声はYOASOBIの曲調にすごく合っていて、透明感があって素敵だなぁと

思う。デジタルな曲調なんだけど、すごく人間味が感じられる声で、好きだなぁ。

しかし、カラオケで歌おうとしても、言葉数が多くて絶対舌噛みそう^^;あんな

難しい歌を歌いこなせるだけでも尊敬しちゃうなぁ。

YOASOBIのファンなら読んでも損はしないと思うけど、読書好きにはあんまり

オススメしないかも^^;一時間くらいで読めちゃうので、あんまり読み応えは

ないと思うので。私は曲の世界観を理解することが出来たという意味で、読めて

良かったですけどね。