ミステリ読書録

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長岡弘樹/「線の波紋」/小学館刊

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長岡弘樹さんの「線の波紋」。


一人娘・真由が誘拐されて一か月、安否のわからないまま、白石千賀は役場の仕事に復帰、溜池工事
の請負業者決定を控えていた。そんな千賀にかかってくる「おたくの真由ちゃんが死体で発見され
ました」といういたずら電話の主とは・・・・(第一話「談合」)。真由ちゃん誘拐事件から2か月後、
同じ町内に住む24歳の会社員・鈴木航介が死体で発見された。同僚の久保和弘はその1週間前、
経理部員である航介から不正を指摘されていた。そして、航介の携帯にいまも届くメールの中に
衝撃的な一文を発見する(第二話「追悼」)。渡亜矢子は真由ちゃん事件の犯人を追っている刑事。
無事に戻ってきた幼児から証言を引き出すのは容易ではなかったが、工夫を重ねて聞き出した犯人像
に近い人物を探し当て、ついに逮捕にこぎ着けるが・・・・(第三話「波紋」)。そして最終話、
すべてのエピソードが1つの線になり、事件の背景にさまざまな「救い」があったことを知る
(「再現」)。一つの事件が起こした波紋は「別の新しい事件を引き起こし、その新しい事件が
また波を立てる。波は当事者のみならず、周りの人々までをも飲み込み、翻弄していく」──
(あらすじ抜粋)。


傍聞きがなかなかの秀作だった長岡さんの三作目。本書は新刊で出た時から評判良さそう
だったので、読もうと密かに狙っていた作品。隣町図書館にてようやく発見。読み始めたら引き
込まれてほぼ一気読みでした。一話ごとに主人公を変えてばらばらの事件を追いつつ、ラストは
それが一つの事件に集約していき、隠された真実が明らかにされて行くという展開が巧みで感心
させられました。前半のニ作はそれぞれにじんわりと感動出来る結末になっていて読後感が良い
のですが、後半のニ編で次第に明かされる結末はなかなかに黒く、救いがない。この作者なら、
最後は心温まるラストになるかと思いきや、その辺りはちょっと予想外の結末だったかも知れ
ません。ただ、完結編とも言うべきラスト一作に関しては、割合先が読めてしまう展開で、
正直ミステリとしては平凡な結末に落ち着いてしまったかな、と少々残念なところはありました。
そこまではなかなかに読ませる展開の連続だっただけに、真相だけがちょっと勿体なかったように
思ったので。あと一歩意外性が欲しかったというかね。あと、第三話の主人公の女刑事のキャラが
ちょっと酷い。刑事なのに、7歳も年下の男に入れあげた挙句、その男の為に刑事を辞めようと
するって^^;どんだけ痛いキャラなんだ、とかなり引いてしまいました・・・。





以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を!












ただ、そんな風に女刑事を痛いキャラにしたのも、真相を知ると納得出来る部分もあったの
ですけれど。でも、いくら母親が事前に担当の女刑事が草食系男子が好きってわかって息子に
アドバイスしたからって、その通りに彼女が息子に靡いちゃうってのはどうもご都合主義的
すぎるんじゃないかと思ってしまいました。っていうか、息子のキャラもキモすぎるし。
こんな引きこもりみたいなプッツン系の男に、刑事の女がそんなに入れ上げるかねぇ・・・。
これこそ、恋は盲目ってやつなんですかね。その辺り、ちょっとリアリティの問題で
腑に落ちない気持ちにもなったんですけどもね。和子の腹黒さに辟易しました・・・。

子供に見せる絵の『おばさん』『おにいさん』のトリックは巧いですね。なるほど、と
思いました。











事件の結末は気が滅入るような救いのないものでしたが、最後に、被害者の死に顔が笑顔だった
理由がわかるラストシーンは良かったですね。
一つの波紋がまた次の波紋を呼び、次第に大きな波となって事件が広がって行く。タイトル通りの
構成で、なかなかに良く練られたミステリだな、と思いました。ミステリ好きならば読んで損は
しない秀作と云えるのではないでしょうか。面白かったです。