ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乙一「さよならに反する現象」(角川書店)

作家生活25周年を記念して刊行された作品集。5作の短編が収録されています。

ホラーよりの作品が多かったかな?とはいえ、あまり怖くはなかったですが。

全体的にちょっと物足りなさを感じる作品が多かったなぁ。天才乙一の片鱗は

あるものの、どうも食い足りなさを感じるというか。短編だからなのかな。最近、

乙一名義の作品をちらほらと出してくれて嬉しい限りだけれど、どれもあと一歩

踏み込みが足りないような感じがしてしまう。期待が大きいせいかもしれないなぁ。

短編だったら、中田永一作品の方が面白く感じるし、世界観だったら山白朝子名義

の方が好みだし。初期の頃のダークさと切なさが両立している乙一作品がまた読み

たいなぁ。

 

では、各作品の感想を。

『そしてクマになる』

リストラされ、クマの着ぐるみに入ることになった男の話。途中、完全にホラー的

展開になって慄然とさせられたけど、ラストは意外とほっこりした着地点だった。

 

『なごみ探偵おそ松さん・リターンズ』

これは多分、アニメの『おそ松さん』の世界観をそのままミステリに落とし込んだ

作品だと思うのですが、いかんせん、当の『おそ松さん』を観たことがないので、

いまいちピンと来なかった。タイトルから、パート1もどっかで書かれているのかな?

とは思いましたが。しかし、ラストのオチには愕然。完全に冤罪じゃないか。もう、

めちゃくちゃ。いいのかこれで、と愕然としました・・・。

 

『家政婦』

幽霊が出るという作家の家で家政婦をすることになった女性の話。その家の周囲で

人が亡くなると、直後に、その家に幽霊になって現れるという。しかし、作家

からは、家の中で幽霊を見ても無視するようにと言われていた。相手をすると、

幽霊に引かれてしまうから・・・。

主人公が、好みの男性に会う度に恋愛相手として見てしまうところには呆れました。

まぁ、面白味はあったけど。そういうあっけらかんとした性格だから仕事を続ける

ことが出来た訳でもありますしね。これは一番オチがぞっとしたかも。落とした鍵

がここで効いてくるとは思わなかったです。

 

『フィルム』

星野源の同名曲からインスパイアされた作品だそうな。原曲を聴いて読んだら

また感想が違うかもしれないな。

 

『悠川さんは写りたい』

写真を合成して幽霊写真を作り、投稿するのが趣味な男が、この世に未練を残して

亡くなった女性の幽霊と出会う話。

浮気した彼氏に未練を残して亡くなった悠川さんは、彼氏に一矢報いる為、

彼氏と浮気相手が写っている写真に幽霊として写りたいという。合成写真で

幽霊写真を作るのが趣味な僕は彼女に協力することにしたのだが――。

切ない乙一系作品かな。ラストはちょっぴりホラー。悠川さんと僕の関係が

良かったです。悠川さんは明るい幽霊だったけど、ラスト読んで、本当に彼氏に

対して怨念があったんだな、と背筋が寒くなりました。