ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「ロマンス」/文藝春秋刊

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柳広司さんの「ロマンス」。

ロシア人の血を引く子爵・麻倉清彬は、殺人容疑をかけられた親友・多岐川嘉人に上野のカフェーに
呼び出される。それが全ての事件のはじまりだった。華族社会で起きた殺人事件と共産主義活動家
の摘発。そして、禁断の恋…。退廃と享楽に彩られた帝都の華族社会で混血の子爵・麻倉清彬が
辿りついた衝撃の真実(あらすじ抜粋)。


柳さんの最新刊。一つ前の『最初の哲学者』は、なんとなく合わなそうな気がしてスルーして
しまったのだけど、これは好みそうだったので楽しみにしていました。昭和初期の華族世界が
舞台。雰囲気は北村薫さんのベッキーさんシリーズみたいな感じ。上流社会の上品さと、軍部
が政治に幅を利かせ、共産主義者天皇制反対のテロを画策するような不安定な社会情勢の
不穏さを同時に感じる作品でした。
始まりは一件の殺人事件。殺人の現場に居合わせ、容疑者と見做されてしまった親友の身元
保証人として呼び出された子爵の朝倉清彬。高貴な立場を利用して、持ち前の弁舌で親友の
アリバイを言い立て、その場を収めて帰ります。けれども、その事件をきっかけに、清彬の
周りではキナ臭い出来事が相次いで起きて行きます。更に、愛する女性が共産主義活動家として
逮捕され、留置場に勾留されたという一報が齎され、清彬の心中は揺れ動くことに。
と、まぁ、こんな感じで終始暗いトーンで物語は進んで行きます。清彬のキャラはクールで
かっこいいのですが、それだけに、終盤で彼が画策する計画や、愛する女性との結末など、
ちょっとガッカリな展開ではありました。殺人事件の真相にはしっかり本格要素が入っている
ものの、意外性という意味ではほとんどなかったのが残念・・・。伏線はきちんと張られて
いるのですけれど。殺人事件の真相は、もっとシビアな当時の社会問題が絡んでいるのかと
思ったのですが、蓋を開けてみると・・・うーん。こういう単純な動機だったとは。でも、
犯人はあまりにもミステリの王道過ぎて、なんか、もうちょっと驚かせて欲しかったなぁ・・・。
作風の割には読みやすくてすいすいと読めて良かったんですが、事件の真相が明らかにされた後の
主人公の女々しい心理描写はちょっと余計に感じてしまいました。主人公がいちいち『もし~
だったら・・・』と後悔する所にちょっとイラっとしてしまった^^;まぁ、確かに真相を
知った上に、あんな出来事があったら、後悔していじいじしても仕方ないとは思うけれど^^;







以下ネタバレあります。未読の方はご注意下さい。















それにしても、万里子って酷い女ですよねぇ・・・。好きでもない男に、自分のしたことを
なかったことにして「外国に連れていって」ですからね・・・。おそらく、清彬が自分に
気があることもわかってて言ったんでしょうね。もし、そこで清彬が『諾』と言っていたら、
本当に二人ですべてを捨てて外国暮らしをしていたんでしょうか・・・。
好きな男の為なら、幼馴染で可愛がってもらって来た男さえも切り捨ててしまえるのだから、
恋した女って怖い・・・。ぶるぶる。

















ところで、周防老人はどうなっちゃうんでしょうかね。なんか、意味深な書き方してた割に、
最後忘れられた存在になっていたような^^;
今回、一番好きだったキャラは、ブラッドハウンドのヘクトルだったかも(苦笑)。
終盤、清彬の為に老体にも関わらず、颯爽と自宅に駆けつけるところがかっこ良かったです。


独特の上品で静謐な雰囲気は好みだったのですが、ミステリとしてはもう一捻り欲しかったかな、
という感じでした。
面白かったけど、帯の『今年度No.1ミステリー大本命』はちと煽りすぎでしょう。
恋愛を絡ませたところは好みだったんですけどね。完全恋愛みたいにグッとくるものは
なかったかな。ミステリにも恋愛にも、あと一歩深みが欲しかったです(え、偉そう?^^;)。