ミステリ読書録

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恩田陸/「隅の風景」/新潮社刊

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恩田陸さんの「隅の風景」。

プラハで飲む黄金のビール、高所恐怖症の韓国登山、スモッグの向こうに霞む北京の太陽。出会える
かもしれない物語のかけらを求め、徹夜明けの目をこすりつつ、今日も作家は旅に出る。著者撮影の
写真を多数収録、身体の隅に今も残る旅のイメージをくっきりと映し出す紀行集。おすすめの旅の
本を一挙紹介したブックガイド付き(紹介文抜粋)。


恩田さんの最新作は、「『恐怖の報酬』日記」「メガロマニア」に次ぐ、紀行エッセイでした。
恩田さんの紀行エッセイ大好きなので、とても面白かった。『恐怖の~』の時でも恩田さんの
酒豪っぷりには驚かされましたが、今回も、まぁ、飲むわ、飲むわ。旅行先のレストラン・バー
はもちろん、移動の列車や飛行機の中でも、泊まったホテルの部屋でも、とにかく恩田さんの
行く先にはお酒がついて回るってくらい、毎日毎晩お酒を飲んだ記述が出て来る。それに
伴って、当然の如くに現地の郷土料理等も食べる訳で、恩田さんって、旅行の度にすごい太って
帰って来てるんじゃないだろうかって邪推してしまいました(苦笑)。でも、取材なのに、すごく
楽しそうだから、それはそれでストレス解消になって小説の糧になっているのかな(笑)。
それに、やっぱり恩田さんのすごいと思うところは、行く土地で出会う些細な物や出来事から、
壮大な小説のストーリーを思いついてしまうところ。どんなものでも、小説のアイデアにしちゃう
ところは、真性のストーリーテラーだなぁと思いますね。でも、その思いついた小説を、他の作家に
書いて欲しいっていうところは『自分で書くんじゃないんかい!』とツッコミたくなりましたが
(苦笑)。
恩田さんが、旅先で出会う風景や物事をきっかけにしてインスピレーションを湧かせる瞬間が
すごく好き。ああ、ここでこういう発想が出来るから、恩田さんってすごいんだよなぁ、って
しみじみ思う。多分、私だったら同じ体験をしても、絶対そんな風には感じられないのがわかる
から。恩田さんって、イマジネーションの塊みたいな人だよなぁって思う。
日光の章で、恩田さんは半年に一度ダウナーモードが襲って来るそうで、そんな時には、
『世の中には小説家がいっぱいいて、書店には新刊が溢れている。別に私が書かなくたって、
書いてくれる人や書きたい人はいくらでもいる。さっさと隠居して、ただの一読者に戻りたい、
という願望がふつふつと湧いてくる』のだそう。
・・・確かに、世の中にはたくさんの作家がいるし、書きたい人も書いてくれる人もいるでしょう
けれども。でも、恩田さんのような作家は他に誰もいませんから。お願いだから、隠居なんか
しないで書き続けて下さいね(><)。

今回恩田さんが旅した場所は、私も以前に行ったことがあるところが多かったから嬉しかった。
ロンドン・チェコ・日光・台湾・スペイン・奈良・・・まぁ、国や県は一緒でも行った場所は
違ったりもしましたけど。でも、やっぱり少しでも自分の馴染みの国や場所を恩田さんが旅
したと思うと嬉しい。その土地の雰囲気なんかもわかりやすかったですしね。

特に印象に残ったのは、チェコ、スペイン、日光、熊本の回かな。プラハに猫がいないっていう
のは、行った時には全然気付かなかったです。熊本の回では、馬刺しに対する異様なはしゃぎっぷり
の恩田さんが可愛らしかった。恩田さんのあまりのハイテンションに、私も馬刺しを食べに熊本に
行きたくなりました(笑)。スペインも食べ物が美味しそうだったな~。スペインはほんとに
食べ物が美味しかった思い出がありますし。また行きたくなっちゃった。日光の回では、今回の
エッセイの中で一番印象的な言葉が出て来ました。先述したダウナーモードの話もそうなんですが、
旅についての恩田さんらしい記述が出て来て嬉しくなっちゃいました。


「わたしがさがしているのは予感なの」(内田善美『星の時計のLidell』より)

そうなのだ、と私も呟く。
旅に出かけるのは眠り猫を見るためでも、杉並木を眺めるためでもなく、小説の――いや、
小説とは限らない――ただの「何か」の予感を探すためなのだ。


旅に出るのは、予感を探すため。なんとも、恩田さんらしいじゃないですか。これからも、
たくさん旅をして、たくさん予感を見つけて、作品に生かして行って頂きたいと思います。


恩田さんらしさ溢れる紀行エッセイで、堪能しました。著者自ら撮影した写真も美しい。
相変わらず飛行機嫌いのところにちょっと笑ってしまいましたが(笑)。
巻末についてる、オススメの旅に関する本のリストも、本当にいろんなタイプの旅の本が
紹介されていて楽しい。個人的に気になったのは、世界中の図書館の写真を集めたという
『LIBRARIES』。恩田さん同様、私も本のある風景は美しいし、とても魅力的だと思う。
旅に関する本って、その国に行った気持ちになれてなんだかすごくワクワクするんですよね。
私も旅に出たくなりました。私も『予感』を探しに行こうかな。