ミステリ読書録

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有川浩/「ヒア・カムズ・ザ・サン」/新潮社刊

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有川浩さんの「ヒア・カムズ・ザ・サン」。

編集者の古川真也は、幼い頃から触れたものに残る記憶が見えた。ある日、同僚のカオルの父親が、
20年ぶりに帰国する。彼はハリウッドで映画の仕事をしているはずだったが、真也に見えたものは
――。表題作ほか、実際に上演された舞台に着想を得て執筆された「ヒア・カムズ・ザ・サン
Parallel」。有川浩が贈る、物語の新境地(紹介文抜粋)。


有川さん最新刊。演劇集団キャラメルボックスとのコラボ小説。7行のあらすじから着想を得た
二つのストーリーが収められています。同じあらすじでも、こんな風に違ったストーリーが
考えられるんだな~と興味津々で読みました。二作目の『Parallel』の方は、実際にキャラメル
ボックスが舞台化した作品から着想を得て書かれたものだそうですが、登場人物や大まかな
ストーリーが一緒なだけで、話そのものは別物になっているそうです。
つまり、『ヒア・カムズ・ザ・サンという作品は、この世に三種類のストーリーがあるって
ことですね。舞台はどんなお話になっているのか、そちらも気になるなぁ。

主人公の古川真也は、出版社で編集者として働いています。彼には幼い頃から特殊能力があり、
物や場所に残された人の残留思念を見ることが出来るのです。つまり、ちょっと前にドラマや
映画や小説で取り沙汰されたサイコメトラーってやつですね。例えば、作家が作品に込めた
強い思いなんかも、直筆の原稿から読み取ることが出来る。だから、相手の機嫌を察知して
その後の振る舞いを決めることなんかも出来てしまう。そんな訳で、世渡りには長けている。
そんな自分にコンプレックスを感じている真也は、自分とは正反対で、どんなことにも
まっすぐぶつかって行く同僚のカオルに惹かれています。二作目では真也とカオルはすでに
恋人同士ですが、一作目の方ではまだそこまでの関係ではありません。そんなカオルの父親が
20年ぶりに帰国することになり、どちらの作品でも一悶着が起きることになる・・・というのが
大筋。それぞれの展開を細かく記してしまうとネタバレになってしまうので控えますが、個人的
には二作目の『Parallel』の方が好きだったかな~。父親像は一作目の方が良かったですけど^^;
でも、二作目の情けない父親でも、カオルへの真っ直ぐな愛情は感じ取れたし、真也との関係も
真也の家族との関係も好きだったな。特に、真也の妹が一生懸命カオルの父親をフォローして
あげるところが健気で好感持てました。ラストも良かった。
でも、両方合せて一番胸に残った言葉は、一作目の真也の、『編集者にとって一番大切な仕事は
物語に寄り添うことだ』という言葉。物語に寄り添うことが出来る編集者は、その物語が適切な
方向に進んでいるか、しっかり見極められる筈だってことですよね。出版社側の人間にとっては
耳が痛いセリフなのかもしれません。でも、すごく有川さんらしい言葉だなぁ、と思いました。
真也は自分の『察することが出来てしまう能力』を引け目に感じているけれども、そんな能力が
あるとかないとかの前に、こういう大事なことが自然とわかっているのだから、十分編集者として
有能なんだろうな、と思いました。

読む人によって、どちらのストーリーの方が好きかは好みが分かれると思いますね。どちらも
それぞれに面白かったですけど、両方ともあっさり読めてしまうのでちょっと物足りない感じは
あったかな。まぁ、舞台とのコラボレーション小説だから仕方ないところなんですけど^^;
二作目の『Parallel』の方も舞台のノベライズではないってところが面白いですね。舞台は舞台で
楽しみましょう、って感じなのかな。それにしても、キャラメルボックスって、小説家さんとの
コラボが多いような。恩田さんの作品も舞台化してましたよねぇ。脚本家か誰かが小説好きなの
かしらね。