ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

川澄浩平「探偵は教室にいない」/鈴木るりか「14歳、明日の時間割」

どうもどうも。今日は相方が忘年会でいないので、珍しく連続投稿。
私もやっと今日で仕事終わり。今年は冬休みが長いです。まぁ、とくにどこに
行くとかもなく、のんびり過ごそうと思っておりますが。年賀状も作らないとな・・・(面倒)。
年内はたぶん、あと一回更新できそうかな。たぶん、年末ランキング発表になると
思いますが。今年は何冊読んでるかな。数えなくっちゃ。去年より多いといいのだけど。


今回も二冊です。

 

川澄浩平「探偵は教室にいない」(東京創元社
第28回鮎川哲也賞受賞作。去年の作品が強烈過ぎたので、今年はどうかなーと
思いましたが、アレに比べるとびっくりするくらい、普通の青春ミステリ。
落差がすごすぎる^^;選考委員満場一致で決定したらしいですが、うーん。確かに、
青春ミステリとしてはまずまず楽しめましたけど、正直、全体的にインパクトに欠ける感は
否めず。連作短編形式で、日常の謎系でもあるので、一つ一つの作品でもそんなに
派手な事件が起きないし。ミステリとして小粒な印象を受けてしまうのは仕方がない
かなぁ。キャラクターは悪くなかったけど、探偵役の少年が学校に行かない理由に
説得力がないのがちょっと引っかかりましたね。引きこもりってわけではなく、
スイーツを買いに外出するし、幼馴染の初対面の友達と話すことも平気だし。
行く必要がないから行かないって、親はどう思っているのかな。なんだかんだで
真史が持ち込む謎を一緒に考えて解いてくれる優しさを持っているところは好感
もてましたけどね。
真史のバスケ仲間である親友の英奈、チャラ男の総士と穏やかでピアノの
上手な京介、四人の関係とキャラ造形は良かったですね。そこに、真史の
幼馴染の歩を加えた5人で主にストーリーが進んで行く。歩は半引きこもり
みたいなもので四人と学校も違うので、真史の周囲で起きた事件を歩に
相談し、歩はそれを聞いただけで解き明かしてしまう、いわば安楽椅子探偵
ものにも近い。ただ、時には歩自身も外に出て謎の調査に参加したりもするので、
完全な安楽椅子探偵ものとも云えないのだけれど。
真史に届いたラブレターの謎、合唱コンクールで京介がピアノ伴奏を断った謎、
彼女がいる総士が他の女性と相合い傘をしていたのはなぜなのかという謎、
父親と喧嘩して家を飛び出した真史がどこにいるのかという謎。
一話目のラブレターの差出人に関しては、多分そうかな、と見当がつきました。
でも、その後の話で全然そのことに触れないのはちょっと不自然なような。
その人物との関係を壊したくないからとはいえ、全くそのままの関係が続くって
いうのもね。ああいう感情を知ってしまっただけに、心理的にありえるのかなぁ、と
ちょっと疑問は覚えました。
最終話の最後のシーンが好きでしたね。真史が父親の言葉にあれだけ
怒った理由がわかって、微笑ましい気持ちになりました。恋愛とは
また違った感情なんだろうけど、真史にとって歩もまた、とても大切な
人物なんでしょうね。
最後は爽やかに読み終えられました。読みやすいところも良かったかな。
続編があるなら読んでみたいかも。


鈴木るりか「14歳、明日の時間割」(小学館
鮮烈デビューで話題になった『さよなら田中さん』の方が読みたかったの
ですが、予約が多くて断念。とりあえず、新刊だったらそこまで待たずに
回って来そうだったので、こちらから予約してみました。道尾(秀介)さんが褒めてたから
気になってた方だったんですよね。
・・・参りました。これが、現在中学三年生が書いた作品なのか、と。
余りある才能に脱帽でした。
文章もさることながら、お話づくりが抜群に上手いですね。
作者と同年代の中学二年生たちを主人公に据えた連作集なのですが、どの
主人公もタイプが違っていて、キャラ造形も上手いし、心理描写も
巧みで共感を覚えやすい。何気ない中学生の日常を綴っているの
だけど、みんなちょっとづつ悩みや鬱屈を抱えていて、それでも
前を向いて生きて行こうと思える終わり方になっている。冒頭の
中学二年生で文学賞を獲って小説家デビューした明日香は、当然著者御本人が
モデルなのでしょうね。てっきり、この明日香が主人公の連作短編集
なのかと思ったのですが、二話目でいきなり主人公が変わってちょっと
戸惑いました。でも、二話目以降も、どのお話の主人公もそれぞれに
ちょっとしたドラマがあって、最後にほろりと出来るところがとても
良かったです。文章は難しい表現なんかは出て来ないけど、言い回しとか
ちょっとした表現に素晴らしい感性を感じました。これはちょっと、
書きなれた小説家でも真似できない感性じゃないだろうか。独特の
ユーモアセンスもあって、何度もくすりと笑ってしまった。
主人公たちは、コンプレックスを抱えている子が多いのだけれど、
それをさほど悲観せずに、諦めて受け入れる潔さがあって、どこか
からりとしているところがとても良かった。友達がひとりもいない子の
お話だって、両親揃って友達がいなかったから、まぁ、その子供に
友達がいなくたって仕方ないじゃない?っていう、前向きな諦めの
気持ちで友達がいないことと向き合う強さがある。友達がいないことを
誤魔化そうとして、文学少女を気取ってみようとするバイタリティー
あったり。そういう、ひとりひとりのキャラ造形がとてもうまい。
かといって、それぞれが似たタイプかというと、全然違って、ちゃんと
キャラごとに個性もある。
そして、何といっても、どのお話でもキーパーソンとして登場する
中原くんのキャラが絶妙。中原くん自身は意識していなくても、
どの主人公にとっても、彼が最後には救いの神になる。彼がいることで、
明日も頑張ろうと前向きになれる。学校という閉鎖された空間で、
コンプレックスや悩みと人知れず戦う時に、彼のように自分にそっと
寄り添って明るく接してくれる存在がいるってだけで、どれだけ
励みになるか。そんな神様みたいに出来た人間の中原くん自身にも、
人には云えない身内の悩みがあって。そういったひとつひとつの要素が、
本当に上手く絡み合ってお話が出来ている。いやー、上手いね。ほんと。
作風的には、瀬尾まいこさんに近いかな、と思いました。読後の感じも。
改めて云うけど、これが15歳が書いた小説だとは、本当に驚きです。
構成も、学校の時間割になぞらえて話が進んで行くところがひねりが
あって面白い。
個人的には、友達がひとりもいない山下さんのお話と、運動神経ゼロの
茜ちゃんのお話が好きだったかな。っていうか、私も学生時代友達
少なかったし、運動神経なくて体育もマラソン大会も大嫌いだったから、
めっちゃ共感出来たっていうか(苦笑)。私は茜みたいに克服できずに
終わったけど・・・^^;小児喘息で気管支が弱かったから、走るとぜいぜいしちゃって
本当に苦しかったんですよ!死ぬ思いでマラソン大会に臨んでいたっけ。
茜ちゃんのお話に至っては、死を目前にした祖父の存在も大きかった。
祖父の言葉ひとつひとつが、心に染みました。人は死ぬ瞬間まで生きている。
当たり前のことなんだけど、とても深く心に刺さりました。長く生きている
人の言葉はこころに響くな、と。でも、それを書いているのが中学生っていう・・・^^;
何気ない文章の中に、はっとするような表現がたくさんありましたね。
一話目の、小説家デビューした明日香に自分の書いた小説を売り込む
国語教師の矢崎先生にはイラッとしたけど。一番やっちゃダメなやつでしょ、それ!
ってツッコミたくなりましたよ。その矢崎先生がラストのお話の主役になるんですけど、
自己評価が高すぎてやっぱりイラッとしました。その自信はどこから?みたいな。
でも、終盤、さすがの矢崎先生も自分の才能に気づく時が来て。それでも、救いの神、
中原くんの存在のおかげで、やっぱり最後は爽やかに読み終えられました。
恐るべし、中原少年。
もう、一作ですっかりファンになってしまった。諦めていたけど、
一作目も気長に予約を待つことにしました。
著者来歴を読むと、もう小学生の頃から小説を書いて賛年連続で
賞を獲ったりされているすごい方なのですね。出版業界内では有名な
存在だったのでしょうね。はぁ、すごい人が出て来たもんだな。
コンスタントに今後書き続けられるのかが鍵なんでしょうけど、
彼女なら大丈夫って気がする。二作目にしてこのクオリティなんだもの。
本当にすばらしい才能の片鱗に触れた気がする。今後の活躍も楽しみだ。