ミステリ読書録

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乾緑郎/「完全なる首長竜の日」/宝島社刊

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乾緑郎さんの「完全なる首長竜の日」。

植物状態になった患者と、コミュニケートするための医療器具「SCインターフェース」が開発
された日本。少女漫画家の淳美は、自殺未遂を起こして数年間意識不明に陥っている弟の浩市と
対話を続けている。「なぜ自殺を図ったのか」という淳美の問いかけに、浩市は答えることなく
月日は過ぎていた。そんなある日、謎の女性からかかってきた電話によって、淳美の周囲で
不可思議な出来事が起こりはじめる…。『このミステリーがすごい!』大賞第9回(2011年)
大賞受賞作(あらすじ抜粋)。


このミス大賞作品。この賞は基本的にあまり相性が良くないので、読むつもりはなかったの
ですが、結構評判が良いみたいなので、借りてみました。
タイトルから、ちょっとファンタジックな作品なのかな~と思っていたら、想像していたのとは
大分違ってました。胡蝶の夢をテーマにした、心理サスペンスっていうんでしょうか。
主人公淳美の中で、何が夢で、何が現実かが次第にわからなくなっていく過程の書き方は、
なかなか緊迫感があって良かったですね。文章も読みやすく、最後まで飽きさせずに読ませる力は
ある方だな、と感じました。
植物状態の患者と医療器具を通して意志の疎通が出来るという設定はなかなか良く考えられて
いると思いました。ちょっと医療用語が頻発して読みにくいところもあったのですが、その辺
はさらりと読み流してしまえばさほどストーリーに関係する訳でもないので、あまり問題は
なかったです。

終盤で淳美の置かれた状況の謎が解かれる所では、こういうことだったのか~、と驚かされました。
読んでる途中で何度も違和感を覚えていたので、説明されてなるほど、と腑に落ちました。
ヒントは提示されていたんですけどねぇ。淳美が、事あるごとに杉山のことを思い出すので、
きっとそういう感情を持っているんだろうな~とは思っていたのですが。ある人物に関しては、
ずっと一人で苦しんでいたのだろうな、と切なくなりました。浩市のこともそうですが。
からくり自体はさほど目新しいものではないのですが、現実世界に、過去に起きた出来事と
植物人間の浩市との頭の中での接触を絡め、夢と現実の境界が曖昧になって行くところなど、
読み応えがあって良かったと思います。
ほんとに、『胡蝶の夢』というテーマそのものの作品と云えるでしょうね。

ただ、ラスト1ページをどう捉えていいのか戸惑いました。こういう終わり方にすることで、
まだ主人公は『胡蝶の夢』の中にいる、と言いたかったんでしょうけどね。
この部分はなくても良かったような気もするんですけどね~^^;なんだか、こういう終わり方
にしちゃったせいで、すごく後味の悪さを感じたので。作品のテーマには沿っているんでしょう
けどね。

まぁ、面白かったんですけど、なんとなく読後にもやもやが残る感じは否めなかったです。
個人的には、同じ回の優秀賞だった佐藤青南さんの『ある少女にまつわる殺人の告白』の方が
素直に感心出来た分、好みだったかな。