ミステリ読書録

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大崎梢/「プリティが多すぎる」/文藝春秋刊

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大崎梢さんの「プリティが多すぎる」。

文芸編集者志望の佳孝が入社3年目に受けた辞令はなんとローティーン向けファッション誌「ピピン
編集部。女の子の憧れが詰まった誌面はどこを開いてもフワフワのキラキラで佳孝には理解不能!?
こんな仕事やってられるかとくさる彼の前に次々と現れる、経験豊かなお姉さん編集者にカメラマン、
スタイリスト、一生懸命な少女モデルたち。そのプロ精神にふれるうち佳孝にもやがて変化が……。
雑誌作りの舞台裏を描く爽快お仕事小説(紹介文抜粋)。


大崎さんの最新作。やっぱり、大崎さんは出版関係の作品書いてる時が一番生き生きしてる感じが
しますね。今回の舞台は、出版社は出版社でも、その中のローティーン向けファッション誌ピピン
の編集部。新人の佳孝は、文芸編集部志望だったにもかかわらず、新しい配属先に『ピピン』を指定
され、嫌々ながらに新しい仕事と向き合うことになります。ファンシーでプリティなピンクの世界に
戸惑い、何度も自分の居場所ではないと感じます。けれども、『ピピン』の若いモデルや、編集に
関わる編集者や関係者たちの仕事に対する真摯で真剣な姿勢に触れるにつれて、少しづつ感化されて、
ピピン』の編集者として前向きに取り組むようになって行く・・・というのが大筋。
最初の頃の佳孝のやる気のない態度には度々ムカっとしましたが、やりたくない仕事を任せられて
しまったら、誰だってそういう態度になってしまうのは仕方のないことですよね。本当にやりがい
があって、やりたい仕事をしてる人なんて、世の中では少数派だと思いますしね。男の佳孝に、
ローティーンのキラキラキャピキャピした世界で仕事しろって言ったって、そりゃ無理があるって
もんです。佳孝は、『ピピン』での仕事は、長い編集者人生の中の通過点に過ぎない、せいぜい
1~2年の辛抱だ、という考えで日々の仕事を無難にこなそうとします。でも、そういう考えで
仕事してると、やっぱり人間って足元掬われるように出来てるんですね。佳孝も、そうして失敗
を繰り返す。けれども、そうした失敗を重ねることで、だんだんと周りの人がどれだけ真剣かが
わかって行き、自身を省みることが出来るようになって行くのです。まぁ、どんな仕事でも、一番
大事なのって、経験なんですよね。佳孝にとって一番大きかったのは、ローティーンの女子中学生
モデルたちのプロ意識と、モデル世界の厳しさに触れたことでしょう。まだあどけない中学生
たちが、時には涙を流しながら、真剣に仕事に取り組んでいる。人気がなければ、仕事がもらえず
埋もれて行くだけ。年齢なんか関係なく、プロの世界の厳しさを現実に知って、彼自身も仕事に
対する姿勢を改めさせられたのでしょうね。最後には少し、今の『ピピン』での仕事に前向きに
取り組むようになれたところに成長が伺えて嬉しかったです。正直、途中までは、いちいち心の
中で文句言いながら仕事をする佳孝に全く好感が持てなかったんですよね^^;与えられた仕事
なんだから、もっとちゃんとやれよ!って何度もツッコミたくなりましたもん^^;気持ちは
わからないでもないんですけど・・・でも、なんか、読んでてイライラしちゃいました。

苗字が『新見』だから、あだ名が『南吉』になってしまい、呼ばれる度に否定してるのに、なぜか
誰からもそう呼ばれるようになってしまうくだりは、『平台はおまちかね』のひつじ君を思い
出しました(笑)。ひつじ君は何度呼ばれても、その度に訂正してましたが、南吉君の方は、
最後の方はもう諦めてる感があったような(苦笑)。私も中学の時、苗字がある演歌歌手と
一緒だった為に、演歌歌手の下の名前があだ名になっちゃったことがありましたっけ。まぁ、
そのあだ名で読んでたのは一人だけでしたけど^^;あんまり嬉しくないあだ名だったなぁ。

タイトル通り、プリティばかりの世界のお話ですが、出版業界だけでなく、ティーンズモデル
たちの厳しいお仕事事情を描いた作品でもありました。華やかそうなモデルたちの世界も
裏事情は大変なんですねぇ。

甘いピンクで彩られた表紙も可愛らしいですね。複数いる南吉くんのフィギュアの表情が、
ピピン』での悪戦苦闘ぶりを表現していて面白いです(笑)。
基本的に仕事が出来る青年なのは伺えるので、このまま『ピピン』で仕事してたら、数年後には
ピピン』一の敏腕編集者になってるかもしれないですね。まぁ、本人は望んでないでしょう
けどね(苦笑)。