ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「凍雨」/徳間書店刊

イメージ 1

大倉崇裕さんの「凍雨」。

凍雨―。降られると、雪より辛い、冷たい雨。地元のタクシー運転手の声が、深江の脳裡にこだま
する。標高一九二二メートル。福島県北部に位置する単独峰、嶺雲岳。この山を久しぶりに訪れた
深江信二郎は、亡き親友植村の妻真弓と、遺児佳子の姿を垣間見る。一方、無頼の男たちを束ねる
遠藤達也も入山。彼らを追う中国人組織も現れ、激烈な銃撃戦が開始された。深江と母娘は、その
争いに巻き込まれてしまう。山が血で染まっていく…。奴らの正体は?深江と母娘の過去の因縁
とは?気鋭が冒険小説に新境地を拓いた、傑作長篇(あらすじ抜粋)。


大倉さんの新作。実は旅行にこの本も持ってったんですが、結局伊坂さんが最後まで読み終わらず、
1ページも読めず仕舞いで持って帰る羽目に・・・何で持っていったんだか^^;ただ、伊坂
さんとは逆に、読み始めたらほぼ一気読み。相変わらずこの人の本は読みやすいなぁ、楽だなー
としみじみ終わった次第です(笑)。

内容はというと、大倉さんお得意の山岳ものかと思いきや、山が舞台なのは間違いないものの、
殺戮シーン満載の、全篇に亘る戦闘アクションものでありました。たった一人で好きな女性を
守る為に犯人グループと渡り合う主人公の深江は渋くてカッコ良かったです。ただ、犯人側だけ
でなく、深江も人質となっている女性と子供を守る為とはいえ、あまりにもあっさりと犯人側の
人物を殺して行くので、とにかく残虐な殺戮シーンが多くて、ちょっとそこは読むのがキツかった
かな。心理描写なんかもあまり出て来ませんしね。深江が裡に秘めた何かを持ってるってのは
わかるんですけど、内面描写が途中までほとんど出て来ないから、何考えてるのか全然掴め
なかったですし。まぁ、そこがハードボイルドというか、クールでかっこいいと言えなくも
ないとは思うのですけれども。ハードボイルドというと何か意味合いが違う気もするな。自衛隊
の特殊部隊にいたという経歴が効いていて、犯人殺害の鮮やかさには目を瞠るものがありました。
犯人グループのメンバーたちはみんな全員が全員壊れた人格の人間ばかりだったので、彼らが
一人また一人と消されて行く過程はある意味胸がすく思いがしました。生き残りをかけた
サバイバルゲームの体裁なので、終始緊迫感が漂っていて、読んでて息が詰まるような気持ち
にもなりましたが。

でも、深江があそこまで命をかけて守る女性である真弓の人物造形がいまいち魅力的でなかった
のが残念だったかな。特に、学生時代の真弓と深江と彼の親友で真弓の亡き夫・植村のエピソード
を読むとね。なんとなくなりゆきな感じで植村と付き合って、でも深江の気持ちに気付いたら
彼のことも気になり始めて・・・みたいな、流されやすい性格にムカっとしました。

終盤はおきまりの展開って感じでしたが、遠藤の最後の頼みを深江が聞いてあげたところは
良かったかな。ただ、せっかく助けた人物があれじゃぁ・・・遠藤も浮かばれないなーとは
思いましたけどね。

結局深江はこれからどうなるんでしょう。親子とは二度と会わないのだろうなぁ。なんだか、
こっちはこっちで浮かばれないような。親友の遺志を継いだとはいえ、あそこまでする必要が
あったのかな、とかいろいろ考えて虚しくなってしまいました。

一気読み出来て面白かったのは間違いないんですけど、山が舞台ならば、やっぱりいつもの
ように山岳ミステリーが読みたかったなーというのが正直な所。この手のサバイバルものは
あまり大倉さんには似合わないような。まぁ、山を舞台にするってだけでも書ける話が
限られている訳で、方向性を変えないとマンネリ化しちゃうのかもしれないですけど。

次はもうちょっと軽めの大倉作品が読みたいかな。白戸君とかオチケンみたいなゆるいやつね。