ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

円居挽「日曜は憧れの国」/池井戸潤「陸王」

こんばんはー。ついに8月突入ですね。梅雨明けした割に、突然雷雨が
降ったりして変な天気が続いてますね。じめじめしてて、典型的な日本の夏って感じ。
最近続報を載せてませんでしたが、我が家の薔薇さんたちは、すくすくと育っております。
花も定期的に咲いておりますし。ただ、新苗さんのうちの一つの葉っぱが黄色くなって、
若干夏バテ気味。今はずっと摘蕾してますが、秋には花を咲かせたいと思っているので、
ここで踏ん張ってもらわねば。秋薔薇が咲いたら、また写真をアップしたいと思っております。


読了本は二冊です。


円居挽「日曜は憧れの国」(創元推理文庫
先日読んだ円居さんの新刊が入荷していたので、予約してみました。駅前にある文化センターの
カルチャースクールの体験講座に申し込んだ四人の女子中学生が遭遇した、五つの事件を
描く青春ミステリー。
中学二年生が主人公ですし、舞台はカルチャースクールの体験講座内ですし、良くも悪くも
非常に軽い。事件といっても、さほど深刻な出来事が起きる訳じゃないですし、その真相も
拍子抜けするものが多かった。比較的深刻だった真相といえば、一話目のお料理講座のお話
くらいでしょうか。深刻というか、お財布盗難も絡んでいるし、ある人物による狡猾な
お金の操作が行われたってことで、他の作品よりは真相が重かったかな、ってくらいですけど。
学校も性格も違う四人の女子中学生、千鶴・桃・真紀・公子が、それぞれの話で交代に
主役を勤めます。最終話は、全員で。四人が出会ったカルチャースクールには、いろんな
講座があり、その中で五つを選んで体験出来る五枚綴のフリーチケットがあります。四人は
それぞれの理由でそのフリーチケットを手にして、スクールにやって来る。彼女たちが
一枚目に選んだのは、料理教室でした。そこで財布盗難事件に遭遇し、真相についての
意見を交換し合ったことで、意気投合し、その後の残ったチケットは同じ教室を選ぼうという
ことで意見が一致するのです。
四人それぞれにキャラが違うところが良かったですね。内気で事なかれ主義だが素直な性格の
千鶴、明るいが子供っぽい桃、頭の回転は早いが現金でお調子者気質の真紀、美少女だが
生真面目で堅い口調で話す公子。学校や性格が違うからこそ、学校内のしがらみなどから
解放され、気のおけない関係になれたのだみと思う。こういう関係っていいな、と素直に
思えました。
それぞれのお話では、さほどミステリ的に驚きはなかったものの、さらりと読める
青春ミステリとしては、楽しく読めました。カルチャースクールの体験チケットっていう
設定はなかなか面白かったです。中学生が選ぶにしては、将棋や歴史講座や小説講座
といった、渋めのものが多かったですけれど・・・私だったら将棋や歴史講座は絶対
選ばないなー^^;;
最終話では、フリーチケットの最後の一枚の使い方がそれぞれ違っていて、意外な
展開になって面白かったです。
こういう体験講座で、自分の興味を引くものが広がって行くのっていいですね。
体験講座のフリーチケットは使い果たしてしまったけれど、彼女たちの友情関係が今後も
続いて行くといいな、と思いました。


池井戸潤陸王」(集英社
どの書店でも大々的に平積みになってプッシュされている、池井戸さんの最新刊。
今度は、老舗の足袋屋さんが舞台。零細企業の足袋専門業者『こはぜ屋』の社長・宮沢は、
時代と共に衰退していく会社の売上向上の為、新事業を立ち上げることに。それは、長年
培って来た足袋製造の技術を生かした、ランニングシューズの開発。しかし、その前には
数多の困難が振りかかる。銀行からの貸し渋り、新ソール開発の為の素材探しの難しさ、
ライバル業者からの妨害工作――それでも、素晴らしいソール素材の発見や、カリスマ
シューフィッターや故障した元箱根ランナーとの出会いなどが、宮沢の挑戦の追い風に
なって行く。果たして、こはぜ屋の挑戦は成功するのか――。

やー、面白かったです。もう、池井戸ワールド全開!って感じの内容になっていて、
600ページ近い大作なのに、あっという間に読み終えてしまいました。右肩下がりの
零細企業が、様々な困難に立ち向かいながら、目的を達成して行く様は、日本のすべての
企業に勇気と希望を与える内容になっているのではないでしょうか。
出て来る登場人物がみんないい味出してるんですよね~。そして、ライバル会社の
悪役たちも、いかにも!って感じのわかりやすい嫌な奴っぷり(笑)。今回は、その
対比(善人対悪人)がはっきりしていて、こはぜ屋側に感情移入しやすかったです。
このお話を読んで、ライバル会社のアトランティック側に感情移入する人なんて一人も
いないと思う。将来を感じさせる選手に対してはちやほやするけれど、故障して先が
ないと目された選手に対しては手のひらを返したように冷たい態度を取り、冷酷に
契約打ち切りを宣告する。けれども、同じ選手が故障を乗り越えて再び将来性が見えると、
またも手のひら返しに態度を変えて、擦り寄って行く。もー、なんなの、こいつら!って
思いましたよ。しかも、業績を伸ばし始めた『こはぜ屋』を、わかりやすく目の敵に
し始め、挙句の果てには卑怯な妨害工作。こんなことばっかりやってたら、そりゃ
顧客は離れて行きますよ。大手メーカーがなんぼのもんじゃい!って言ってやりたく
なりました(まぁ、実際の大手メーカーはもっと堅実にやっていると思いますけど^^)。
宮沢の協力者となる、シルクレイの考案者・飯山や、カリスマシューフィッターの
村野といった、脇役キャラもいい味出していて良かったです。もちろん、『こはぜ屋』
の従業員たちもみんな素敵な人ばかりでしたし。宮沢の息子の大地も、最初は就職活動が
上手く行かずに、嫌々『こはぜ屋』を手伝ってる感満載で、あまり印象が良くなかったの
ですが、飯山の手伝いをするようになってからは、だんだんと仕事に対する姿勢が変わって
行って、好感持てるようになりました。飯山と大地のやり取り、良かったなぁ。こういう
師弟関係、素敵ですよね。飯山の借金取り問題が最後どうなったのかは気になったの
ですが・・・(結局有耶無耶なままのような)。
『こはぜ屋』とランナーの茂木との関係も素敵だった。茂木が、最終的に選んだ
シューズで走った時の感動っていったら!ライバルを追い越して走って行く『陸王
の姿が読んでる私の目にも浮かんで、胸が熱くなりました。
小さな会社だって、いいモノを作ろう、という情熱を信じて進んで行けば、いつか
きっと報われる日が来るんだ、ということを教えてくれる作品でした。ヒット商品って、
こうやって些細な発想から、大変な過程を経て、生まれて行くのかな、と思えました。
池井戸さんのこの手の作品は、予定調和な展開が、実に気持ちがいいのです。
そうそう、そう来なくちゃ!って思ってしまう。
読んだ誰もが、読み終えた時に、自分も『こはぜ屋』の一員であるかのように、
彼らを愛おしいと感じる筈です。そして、風のように駆け抜ける『陸王』を誇らしいとも。
本当に気持ち良く読み終えられました。
陸王』と共に物語を駆け抜けられて、スカッとしました。面白かった。
これ、絶対間違いなく、ドラマ化か映画化されるでしょうね。
ちなみに、『陸王』のモデルも、『こはぜ屋』のモデルも実在するのだそう。
そういう実際の下地があるからこそ、物語にリアリティがあるのでしょうね。