ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎「シーソーモンスター」/一本木透「だから殺せなかった」

こんばんはー。GWも終わっちゃいましたね。私は最長6連休だったのですけれど、
6日も休むとやっぱり仕事に行きたくなくなりますね・・・。私でさえそうなんだから、
10連休だった方なら余計に5月病になるんじゃないだろうか・・・。
長い休みも良し悪しですねぇ。
そういえば、GW中にわが町では大粒の雹(ひょう)が降りまして。それも、ものすごい量の。
そのせいで、やっと蕾が付き始めた薔薇さんたちが軒並みやられてしまいました。
もう本当にショックです。蕾も葉っぱもボロボロで。せっかくこれから薔薇の季節
なのに(涙)。今年はきれいな薔薇の写真がアップできないかもしれません。ぐすん。


今回も二冊をご紹介。


伊坂幸太郎「シーソーモンスター」(中央公論新社
伊坂さん最新作。『小説BOC』で立ち上げられた螺旋プロジェクトの一環として
出された作品。螺旋プロジェクトとは、巻末の解説によると、8人の作家が
ある一定の『ルール』のもと、古代から未来までの日本を舞台に、ふたつの一族が
対立する歴史を描いた競作企画だそうです。伊坂さんの担当は、昭和後期と近未来
の二作。ちなみに、今の所刊行されているのは朝井リョウさんの一作のみで、
朝井さんは平成(改元~2014年まで)を描いてらっしゃるようです。
他の作家さんは、天野純希、乾ルカ、大森兄弟、澤田瞳子薬丸岳吉田篤弘
さんだそう。壮大な企画過ぎるし、未読の作家さんもいるしで、全部読める気が
しないのだけれど(薬丸さんのは絶対読むけど、あとは読んでも乾さんくらい
かなぁ^^;)。
ある一定のルールというのは、古来から人類は『海族』『山族』に分かれて
対立してきた。海族と山族の人間が出会うと、例え身近な人であっても、必ず
反りが合わず、諍いに発展する、というもの。だからまぁ、どの作家さんの
作品も、その時代に出会った海族と山族の戦いを描いていると云える訳です。
で、本書に関しては、二つの中編が収録されていまして、前半は昭和の時代の
嫁姑争いで、後半は、交通事故で二つの家族の生き残り同士が反発し合うお話。
もちろん、嫁姑もそれぞれに海族と山族で、生き残り同士もしかり。どんな
出会いをしようが、海族と山族ってだけで、相手に反発心を覚えてしまう。
まぁ、現実でも、何がある訳じゃないんだけど、なんだか反りが合わない人
って誰にでもいますよね。その根本原因に海族山族の因縁があるっていうのが
このプロジェクトの根幹という訳ですね。人類の歴史は戦いの歴史とも云える
でしょうから、そういう部分を踏まえてこういう設定にしたのかもしれません。
面白い趣向だとは思うけど、本書単体で読んでも十分楽しめるようにはなって
いると思います。おそらく、全部の作品を読むとまた違った楽しみ方ができるのだと
思われますが。
ただ、個人的には私は前半の『シーソーモンスター』の方は楽しめたけど、
後半の『スピンモンスター』の方はどちらかというと苦手な伊坂さんよりの
作品でした。『シーソー~』の方は嫁姑の対立に悩む気弱な青年が主人公で、
妻と母親の板挟みになって困り果てつつ、大きな事件にも巻き込まれてしまう。
妻と母親共通の過去の仕事には目が点。そんな偶然ある?^^;っていうか、
この奥さん、私の脳内では、完全に数年前の綾瀬はるかちゃんのドラマ
『奥様は取扱い注意』の奥様をイメージして読んでました。金城一紀さんの
原作で、綾瀬はるかちゃん演じる奥様がとくかくカッコよかったんですよね。
その奥様とそっくりだなぁと思って。微妙に元の仕事の種類は違うけれどね。
終盤、嫁姑が結託して主人公を助けるところがとにかくカッコよかった。
反りが合わなくても、大事な人のピンチの為なら協力し合えるってところが
良かったですね。なぜか、その後も反りが合わないのにある分野で一緒に
仕事することになるし。不思議な二人です。
『スピン~』の方は、交通事故で一気に家族を失ってしまった二人の男の
物語。近未来のお話なので、いろいろ細かい設定が未来風になってます。
主人公の一人である水戸直正は、なぜかやってもいない暴動事件の首謀者
として警察に追われることになる。この辺りの経緯は、ゴールデンスランバー
に似ているかも。あちらと違うのは、逃げる時に同行者がいることですが。
そして、水戸を追う警察官の一人が、もうひとりの主人公(水戸の方の
出番の方が圧倒的に多いのでそういえるのかは微妙かもですが)檜山景虎
因縁の二人が、追う者と追われる者に分かれて逃亡劇を繰り広げるというもの。
その背景には、人間よりはるかに優秀な人工知能ウェレカセリの存在があり、
そのウェレカセリを開発した寺島テラオの死により、ウェレカセリが暴走
してフェイクニュースを発信し続けている可能性があるという(自分でこうして
書いてても意味不明^^;)。個人で配達人の仕事をしている水戸は、生前の
寺島テラオから預かった手紙を寺島のかつての友人中尊寺敦に届けたことから、
なぜか中尊寺と共に逃亡する羽目になってしまう。いわゆる巻き込まれ型の
逃亡劇って感じですね。
水戸と檜山の因縁のラストにはやりきれない気持ちになりました。海族と
山族が接触すると、結局こうなってしまうというのでしょうか。一作目の
二人とは違った結末が皮肉でしたが、本来はこっちの方が王道なんでしょう。
血筋を引いているからといって、いがみ合う、というのは何かが違っている
ように思えてなりませんでした。一作目に出て来た宮子さんは、相変わらず
賢くてカッコよかった。
結局最後はいろいろ有耶無耶なまま終わっちゃった感じなので、なんだか
もやもやしました。ウェレカセリはどうなったのか。ヒナタさんって結局
何者だったのか。γモコは?うーん。しかし、事故の時に勝手に目を手術
されて、カメラを埋め込まれるとか、嫌すぎなんだけど。カメラの目的も
よくわからないし。何かいろいろ消化できないままだったな。残念。


一本木透「だから殺せなかった」(東京創元社
昨年のミステリ関係の賞を総なめにした『屍人荘の殺人』と大賞を争い、
結果、優秀賞を獲った作品だそう。あんまり意識して借りた訳じゃないんだけど。
新聞報道やメディアのあり方を問うた問題作と言えそうです。
正直、序盤100ページくらいまでで挫折しそうになりました。あまりにも
冗長過ぎて。状況説明やらいろんな前置きが長すぎて、全然本筋に入らない
んだもの。これじゃ、掴みで投げ出されちゃうよ、って思いました。これで
良く、最終候補に残ったなぁって呆れました。ただ、ネットで感想みると、
後半の展開はかなり絶賛されている模様。とにかく、意地で読み進めました。
物語のキモとなる連続殺人が起こり、新聞社の記者と紙面で対決する
くだりになってから、やっと物語が面白くなって来ました。それでも、
文章はやっぱり説明臭いというか、やたらに回りくどいので読みにくかった。
いろいろと説明したくなる気持ちはわかるんだけど、それ全部やってると
読むほうが疲れちゃうんですよね。早く本題にいけよ!みたいな(苦笑)。
ところどころで、読んでてイライラしました。一本木と連続殺人鬼ワクチン
との紙面対決も、その設定自体は面白いんだけど、紙面に載せた文章を
そのまま読むのはやっぱり苦痛だった。お互いに自分に酔ってる感じの文章
なんだもの。新聞に載せる文章だから硬質なのは仕方がないのだけれど。
ただ、ワクチンの正体自体は予想の範囲内ではあったものの、そこからの
二転三転する展開は読み応えありましたね。最後の最後までドンデン返し的
な仕掛けもありますし。ツッコミ所もいろいろありますけど、ミステリとしては
面白かったです。タイトルの意味も、最後でちゃんと腑に落ちました。
犯人の動機はわかるような、わからないような。この理由でやり始めたら、キリが
ない気がするけど。殺意が芽生える気持ちはわかりますけどね。私だって、こういう
奴らは死ねばいいのにって思っちゃうし。ただ、こういうミッシングリンク
警察が調べればもっと早く判明しているものじゃないだろうか?その辺り、
ちょっと設定の甘さを感じなくもなかった。
全体的な冗長さでかなり損してる感じはしました。なんか、300
ページもない本なのに、やたらに時間かかった感じがしました。
インパクトでいえば、やはり『屍人荘~』には遥かに及ばないかな、と
思いましたね。私が選考委員でも、『屍人荘~』を選ぶと思う。