ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

窪美澄「アカガミ」/伊坂幸太郎「サブマリン」

どうもどうも。なんか、いきなり夏みたいな暑さですね。
昨日今日の東京は30℃を超えたとか超えないとか・・・5月っていつもは
こんなに暑くないですよね!?
今年は暑い夏になりそうだなぁ・・・。


今回は二冊。


窪美澄「アカガミ」(河出書房新社
少子化日本の未来を描いた問題作・・・でしょうか。舞台は2030年の日本。
若者のほとんどが恋愛も結婚もせずに一生を終える選択をするような時代になっている。
将来を悲観し、自殺する者が続出。このままではいずれ日本は滅びてしまう・・・そんな中、
政府が打ち出した対応策が、『アカガミ』と呼ばれるお見合い制度。自殺志願者
だった25歳のミツキは、渋谷のバーで出会ったログという女性に、アカガミへの
志願を勧められる。言われるままにアカガミに志願したミツキは、そこでパートナーとして
充てがわれたサツキという男性と定められた団地の部屋で生活することに。サツキとの生活は
戸惑いの連続だったが、次第に恋が芽生え、性の喜びも覚えて行く。しかし、この制度には
裏の目的があった――。

なんとも、リアルなんだか荒唐無稽なんだか、判断しずらい作品ではありました。
ただもう、ラストは怖ろしい、の一言でしたね。ぞぞぞーーー・・・。
いや、タイトルから、何か意味深だよなぁ、とは思っていたのですよ。だから、
終盤明らかにされる『アカガミ』の実態には、案の定、みたいなところはあったの
ですけれどね。アカガミって言えば、やっぱりアレを想像しちゃいますからねぇ。
それにしても、なんていう制度を考え出したのか。おぞましい、としか
思えませんでした。
ミツキとサツキが出会って恋愛して、性に目覚めて行く過程の辺りまでは面白く
読んでいたのですけどね。そこから先は、完全にホラーと言っても過言じゃない
展開でしたねー・・・^^;;
最近の若者はあまり恋愛をしないとか、彼氏彼女がいない独身者が増えている、とかの
ニュースをよく耳にしているので、それがどんどんエスカレートしていくと、
こういう世の中になって行ってしまうのかなぁ、と暗澹たる思いになりました。
それが行き過ぎて、自殺者が増える、というところまでは、ちょっとリアリティが
ないようにも思いましたけど。
基本的には面白く読んだのですが、いくつか腑に落ちない点が残っていて、
ラストは放り投げられたような読後感でした。この先どうなるの!?ってところで
突如終わっているので。ログがどうして具合が悪くなったのかも謎のままだし。
ミツキと話したくないが為の方便だったのか、本当に何かの病気だったのか。
ログがどうやって、いつ『アカガミ』の正体を知ったのかもわからないままですし。
ラストは、希望が持てると言えなくもないでしょうけど、その先のことを考えると、
暗い未来しか残されていないように思う。少なくとも、ミツキの母親は
施設から放り出されてしまうでしょうね・・・どうやって生きて行くのでしょうか。
『アカガミ』の子どもたちの未来のことを考えても、暗澹たる未来しか思い描けない。
何か、未来の日本が、巨大な宗教施設になってしまったような得体の知れない恐ろしさ
を感じました。
あの北の国とかだったら、こういうの実際ありそうですけどね・・・(しーん)。
唯一良かったと思えたのは、ミツキがサツキと出会ったことで、恋や性を知り、生きる
意味が見いだせたことでしょうか。これから苦難が待ち受けていても、守るべきものが
出来たことで気持ちも強くならざるを得ないでしょうし。彼らの未来が、少しでも
明るい方に向かうといいな、と思いますね。


伊坂幸太郎「サブマリン」(講談社
待ちに待った、『チルドレン』の続編。ついに、陣内と再会出来ました。他の作品は
結構続編化しているのに、なかなか『チルドレン』だけ続編が出ないなぁ、と気をもんで
いたのですが。やっぱり、伊坂さんはファンの要望を裏切らない人ですね。
伊坂さんの作品の中でも、キャラクターではおそらく一番人気があるであろう陣内。
久しぶりの再会でしたが、相変わらず言うこともやることもめちゃくちゃ(笑)。
はた迷惑、を絵で書いたような人物が、陣内という人間。
でも、そうした言動の中にも、ちゃんと意味があって、一本筋が通っているんですよね。
やっぱり、陣内が大好きだなぁ、と改めて思わされました。上司にいたら嫌だけど(笑)。
実は、陣内が家裁調査官ってことすら、忘れていたのだけども(おいーーー)。そして、
そんな陣内に振り回される武藤の存在もすっかり記憶から抜け落ちていたりしたのだけども
(ごめん、武藤)。それでも、二人の軽妙なやり取りに何度も吹き出したし、胸に
沁みる言葉もいくつかあったりして、楽しくって、あっという間に読み終わってしまった。
読み終わりたくないよーって思いながら、最後の1ページを読み終えました。
いくつかの伏線が最後に効いて来るところも、さすが。多少ご都合主義的なところも
あるのだけど、そんなのは瑣末なことに思えました。
無免許運転によって死亡事故を起こしてしまった棚橋。棚橋は、10年前に自らも
交通事故に巻き込まれて友人を亡くしている。そういった背景を知った担当調査官の
武藤と陣内は、彼の背後にあるものが何なのか探って行く――。
10年前、棚橋の友人を轢いた車を運転していたのが若林。当時、若林を担当していたのが
陣内。陣内が、若林のしょうもない父親の会社の忘年会に乗り込んで、『パワー・トゥー・ザ・
ピープル』の替え歌を歌うシーンが最高でした。会社の人たち、驚いただろうなぁ。付き合わされる
永瀬も驚いただろうけど(苦笑)。でも、それに付き合っちゃうところが素敵。なんか、
いい関係だなぁ、と嬉しくなりました。
陣内ってほんと、めちゃくちゃな言動ばっかりではた迷惑な人間だけど、人から憎まれない
性格してますよね。はた迷惑な行動も、陣内なら仕方ないか、と思えるっていうか。
その言動の根底には、人としての正しさと優しさがあるからなんでしょうね。


『誰かの大事なものや大事な人を、馬鹿にして、優位に立とうとする。自尊心や命を
削ろうとする。そういう奴らと同じになるなよ。そいつが誰かに迷惑かけてるならまだしも、
そうでないなら、そいつの大事なものは馬鹿にするな』


『全力で何かやれよ。全力投球してきた球なら、バッターは全力で振ってくる。全力投球を
馬鹿にしてくる奴がいたら、そいつが逃げてるだけだ』


陣内の言葉は時々、酷く胸を打ちます。いつもは変なことばっかり言ってるのにね(苦笑)。
今回も軽妙なやり取りの裏で、根底にあるのはとても重い問題。死亡事故を起こした犯人に、
事故を起こすだけの理由があったなら。
私はほとんど運転をしないけど、身内の人間がふとしたことで加害者にも被害者にもなる
可能性がある。被害者側に立ったら、犯人は憎いだけの人間。でも、加害者側の関係者
だったら、犯人の罪をなんとかして軽くしようと働きかけるかもしれない。
家裁調査官の武藤や陣内の立場だと、いろんなことを考えさせられそうです。

重い問題に答えは容易に出せるものではないけれど、ラストはすっと爽やかに
読み終えられました。若林青年の罪も、棚橋青年の罪も一生消えないけれども。
彼らの背景を知ってしまった後では、彼らの心の重しが少しでも軽くなればいいな、と
思えました。
若林青年が取ったある人物からの電話が、本当に就職に関するものだったらいいのになぁと
思いました。ま、さすがにそんな都合よくはいかないでしょうけれど。

HPの著者インタビューを読んだら、この先更なる続編が書かれる予定はないのだとか。
そんなことおっしゃらず、またいつか陣内と再会させて欲しいです。